2020.06.25

「楽しい」それでいい

知洸さん(右)に押され、車椅子のまま車に乗り込む郷家準一さん。外出時は紫色のディズニータオルを掛けるスタイルがお気に入りだ=奥州市水沢
知洸さん(右)に押され、車椅子のまま車に乗り込む郷家準一さん。外出時は紫色のディズニータオルを掛けるスタイルがお気に入りだ=奥州市水沢

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

郷家 準一ごうけ・じゅんいちさん(42)=奥州市水沢

 

③外出

 6月の平日、郷家準一さんは妻の知洸(ちひろ)さん(30)と、自宅から車で5分の眼鏡店に出掛けた。病気で顔がやせ、フレームの幅が合わなくなったためだ。

 介護サービスの合間をぬって他の客が少ない時間帯を狙うため、開店時間の午前10時を目がけて出発。2人とも外出は楽しみだが、事前の準備のほかに、注意すべき事も多い。

 郷家さんは首の筋力が低下し、段差などのわずかな衝撃で首に痛みが走る。車移動の際は、首からみぞおち付近までを固定できるコルセットを装着する。短時間の外出でも、充電した痰(たん)の吸引器やおむつ、水分(スポーツドリンクなど)の持参は欠かせない。

 車は2年前に購入したワゴンで、後ろの扉から車椅子のまま乗降できる。人の介助は必要だが、車内に備わるベルトのフックを車椅子の足に引っ掛けると、スロープを使って自動で車の中と外を移動できる。

 知洸さんは運転中、夫の首を一番に気に掛ける。「道の平らな所を選び、急ブレーキは絶対かけない。車椅子を押すときも段差があれば頭を手で押さえる」。この日は車の振動で郷家さんのマスクが目の方にずれた。知洸さんは運転で手を離せず、郷家さんは一人で直せないから窮屈でもしばし我慢。こんなちょっとした苦労も日常的にある。

 郷家さん自身、外出していて嫌だなと感じることがある。「若いのに車椅子でかわいそうと、ヒソヒソ話をされる。(唾液などで)むせると周囲の視線が怖い」。相手の声は全部聞こえているし、気持ちもよく伝わる。「ヒソヒソ」はお年寄りに多いという。

 今年は新型コロナウイルス感染症のため外出がめっきり減ったが、郷家さんはこれまで発症後も家族や友人と日帰り、宿泊の旅行を満喫してきた。

 特に東京ディズニーリゾートは病気の前は年に7、8回、昨年も1泊2日で遊びに行った。知洸さんにお城の前でプロポーズをした思い出の場所でもある。

 一番楽しかった旅行は「(2017年1月の)妻の家族と初めて車椅子で行ったディズニー」。「(見える)景色が違った」とメールで教えてくれた。

 車椅子操作や吸引、おむつ交換、胃ろう、水分補給など郷家さんの外出には同行者のさまざまな作業が伴う。4歳の長女菜七子ちゃんも元気で世話がかかる。

 「正直に言ってしまえば全部が大変。だけど一緒に行って協力してくれるみんなが『楽しいという事実さえあるなら、それでいいんだ』と話してくれる。病院や施設で天井だけを見て、生きたいはずがない」。知洸さんは強く言い切る。

 郷家さんには行ってみたい場所がある。「長崎のハウステンボスと海外にあるディズニーランド」。まだ乗ったことのない飛行機で妻と子どもと一緒に-。

 

 ALSの患者・家族会とは 全国組織は1986年設立の日本ALS協会(東京都千代田区)。病気療養に関する政策提言、原因究明・治療法確立の研究助成、啓発活動などを行う。郷家準一さんも参加する県支部は2000年設立。会員は患者18人、患者家族10人に遺族、支援者らを含めた計79人。県内各地で相談・交流会を月1回程度開くほか、患者、家族が他の患者の療養状況を見学する訪問活動、痰吸引や胃ろうなどができるヘルパーの育成、介護福祉機器の貸与、県との意見交換などを行う。

 

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