プロボクサー・八重樫東さん

 プロボクシングの元世界3階級制覇王者の八重樫東(あきら)さん(大橋、黒沢尻工高-拓殖大)は、地方紙連携プロジェクト「#最後の夏残したい!」に賛同し、目標としていた全国大会が中止となった中高生へ向け「頑張ってきたことは無駄にはならない」と激励した。プロボクサーとして試合が決まらずとも鍛錬してきた経験から、こういう時期こそ「自分を成長させる一番の時間帯」と助言。3階級制覇を果たした激闘王らしく、岩手の子どもたちへ熱いメッセージを寄せた。

(聞き手は東京支社・斎藤孟)

 -コロナ禍で考えたことは。

 「いつも応援してくれる人への感謝や、当たり前ではなくなった環境のありがたさを改めて感じる。それをしっかり感じられる人間は、きっとこの状況が明けた時にまた頑張っていける。現状から目を背けずに向き合っていくことが大切なことだ」

 -インターハイ、全国中学校体育大会が中止となった。

 「代わってあげられないので、言葉にならない。ただ、中学校、高校3年生が、何かに懸けてきた思い、頑張ってきたことは無駄にはならない。試合がなくなり表に出せなかったとしても、これからの人生で、それだけ懸けて頑張ってきたことはなくならない事実だし、その経験がいつか自分自身を助けてくれる。だからこそ、あの時試合がなくなったけれど、一生懸命懸けてやってきたという自負さえあれば、またそういう状況になった時に戦えるし、立ち上がれる」

 -世界戦14試合を戦った。試合が決まっていない時はどんな気持ちで練習しているか。

 「試合が決まっていなくてもトレーニングするのが基本。逆に言うと、試合が決まってからでは遅い。決まってない時だからこそやるべきで、試合が決まったら方向性を向けるだけ。自分が強くなりたいという気持ちがあれば、何もない段階こそ、自分を成長させる一番の時間帯だと思う」

 「気持ちの浮き沈みで、やる気が出なかったりする時もあると思う。そういう時は、自分が本当にどういうふうになりたいかを考える。僕は世界王者になりたいと思ったら、試合がなくなったとしても、世界王者という目標は変わらずにある。いつの日か試合は来るから、その時に今より強くなっていたら絶対、世界王者に近づける」

 「試合がないから練習しなくていいやと思ったら、その人はそこまで。だからこそ、自分の中のイメージを鮮明にすべき時だ。こういう時期だからこそ前を向く必要性をすごく身近に感じられる。自分のエネルギーを前に向けられるようにしていったらいい」

 -インターハイで優勝経験がある。

 「高校生の試合って大学に進学する大きなステップになる。僕もそうだった。それがなくなれば可能性を失うことになり、気持ちは落ちるかもしれない。だが他の可能性はゼロではない。この大会で結果が残せなかったら全部だめではなく、違う方向で可能性を模索してみよう。常に可能性を探していく思考さえあれば、何にでもなれる」

 -中学校時代は。

 「中学はバスケットボール部で、控えでほとんど試合に出られなかった。悔しいことしか思い出せない。だけど、練習すればうまくなると思っている自分がいて、それは疑う余地がなかった。漫画のスラムダンクに影響を受けた。誰よりもシュート練習したら絶対、うまくなるんだと信じて疑わず、ずっとやっていた」

 「でもうまくならなかったし、選手にもなれなかった。しかし振り返ると、そこに向かって何も疑わずに頑張っていた自分は財産になっている」

 「今は情報社会だから、ちょっと調べたらやり方が出てきて、自分を否定する情報も手に入って、自分の可能性を切り捨てちゃう。『自分を信じて』というのは簡単だが、今こういう状況だから、自分を信じる力を身に付けてほしい。それさえできたら、試合ができた時に今の自分よりもいい自分になれると思う」

 「自分が一生懸命何かに打ち込んだ時間は、結果にかかわらず自己肯定感を生む。自分がこれでいいんだと、こんだけやった自分のことを好きになってあげられる。そうすると気持ちが前向きになり、くじけた時でも立ち上がれる」

 「自分のことが嫌いな子は自分のことを好きになれる時間でもあるし、それくらい自分と向き合い、たくさんいろいろなことにチャレンジしてほしい」

 -動画投稿サイトのユーチューブで「八重樫東のやえちゃんねる」を始めた。

 「もともとユーチューブチャンネルはあったが、こっちは仲間とみんなで仲良く、楽しくやりたいと思って開設した。ボクシング以外にも、八重樫東がどんな人なのかを伝えたい。僕のイメージってあると思うがそれを壊していきたい」

   ◇     ◇  

 八重樫 東さん(やえがし・あきら)黒沢尻工高で全国高校総体、拓殖大で国体を制覇。2005年3月プロデビュー。11年10月にWBAミニマム級王座、13年4月にWBCフライ級王座を獲得。15年12月にIBFライトフライ級王座を奪取し、日本選手3人目の世界3階級制覇を果たした。右ボクサーファイター。プロ通算戦績は35戦28勝(16KO)7敗。大橋ジム所属。37歳。北上市出身。