2020.05.28

今できることに専念

奥州市水沢の自宅で、作業療法士から呼吸補助のリハビリを受ける郷家準一さん(下)。誤嚥を起こしやすい病状を踏まえ、唾液やたんをはき出させるような療法も施されている
奥州市水沢の自宅で、作業療法士から呼吸補助のリハビリを受ける郷家準一さん(下)。誤嚥を起こしやすい病状を踏まえ、唾液やたんをはき出させるような療法も施されている

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)

郷家 準一ごうけ・じゅんいちさん(42)=奥州市水沢

 

②日常生活

 郷家準一さんの一日は午前7時すぎ、胃ろうからの「朝食」で始まる。タンパク質やビタミンが配合された経管栄養1缶(250ミリリットル)を、胃に開けた穴から点滴のように流し込む。時間は約30分。速く流しすぎると腹痛の原因になる。本人に満腹感はないという。

 胃ろうを開ける手術を受けたのは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断から2年半ほどした2017年の暮れだった。食べ物を飲み下す機能が落ち、口からの摂取だけでは十分な栄養が取れなくなった。

 口と胃ろうでの食事を併用した。しばらくは好物のカツ丼も半分ほどなら、じかに食べられた。しかし、徐々に厳しくなった。

 今年3月、2度目の誤嚥(ごえん)性肺炎になったのを機に、固形物で唯一食べられていたヨーグルトをやめた。現在、口から楽しめるのは1日150ミリリットルほどの果汁やスープ類のみ。病気になる前に70キロ以上あった体重は50キロまで落ちた。

 胃ろうを使った食事は1日3回。昼と夕は各1時間かかり、朝と合わせると計2時間半になる。郷家さんの日常は、食事を含めてさながら学校の時間割のように進む。

 日曜日の昼と夕以外は毎日の朝、昼、夕の3回、訪問介護か訪問看護のサービスを受ける。合間には、それぞれ週3回の訪問リハビリと訪問入浴(うち1回はデイサービス利用)が加わり、往診も月1回ある。

 郷家さんは最近、自力でのトイレをやめ、全面的におむつに切り替えた。家族としての介護を妻の知洸さん(30)が原則1人でするようになり、長女の菜七子ちゃん(4)の子育てもある中、複数の人手がいるトイレの介助は難しくなった。

 郷家さんは昨秋から誤嚥の予防に欠かせない、唾液やたんの吸引が必要になった。具合が悪いと、吸引は付きっ切りになる。介護の量は確実に増えている。

 外部サービスの見直しや回数の増加は、病気が進行する郷家さんの生活の質の確保と家族の負担を減らすため。「自分でトイレをしたい意思はあるはず。ただ、家族が3人で暮らすために妥協してもらった」と知洸さん。郷家さんは「仕方がない。(家族に)無理はさせられない」と胸の内をメールに込めた。

 発病以来、体の機能低下を少しでも遅らせたいと、情報を集め、試行錯誤してきた。リハビリに励み、朝と晩は胃ろうから進行を抑える薬を服用。就寝時は自ら購入した高額な電子治療器を胸に当て、タイマーをセットして休む。

 「前向きに考えています。効果は分かりませんが‥」。病気の進行抑制に傾けてきた努力を、こう評する郷家さん。今できることを続ける。自分のため、家族のため、精いっぱいに。

 

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは 進行性の国の指定難病の一つ。脳や末梢(まっしょう)神経からの命令を筋肉に伝える運動神経細胞が障害を受け、全身の筋肉が侵されていく疾患。手や足の筋肉がやせ細る運動障害、舌が思い通り動かなくなるコミュニケーション障害、食べ物や唾液がのみ込みにくくなる嚥下(えんげ)障害が起き、最終的に呼吸する筋肉が衰えて呼吸障害に至る。一方、視覚や聴覚は正常が維持されるのが普通でテレビの視聴、音楽鑑賞などは問題ない。眼球も動かすことができ、意思伝達に役立てられる。

 

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