帰宅途中、店先に止まるタクシーと暗がりにともる赤ちょうちんが目に入り、ほっとした。営業を再開した居酒屋の前を通りながら、この街にあった日常に思いをはせた。

 4月に釜石、大槌担当になり、はや2カ月。「コロナ」というワードはもはや常態化し、最近は会話で使う頻度が一時期より減ったようにすら感じる。

 この間、どんな状況でも人を思う姿は消えなかった。ドアを開くと、いつも以上にはつらつとした声と笑顔で迎えてくれる飲食店員。早朝取材の時、温かいおにぎりを差し出してくれた浜のお母さん。先行き不透明なこの先に一人一人の不安は計り知れない。それでも「うちよりもあの人の方が…」と他人の苦しみを思う声が多い。

 緊急事態宣言の解除後、大槌町では地域のコミュニティー活動が徐々に再開。震災後に始まった集まりは、たわいないことに笑い合う日常になっていた。オープンな空間は私が交ざってもよどみなく、むしろにぎやかさを増すように広がっていく。

 着任以来、山や海からの風を浴びるたび、目を閉じて深呼吸をしてしまう。来る者を拒まない姿勢は、自然に近いゆえの包容力だろうか。不自由ながらも回り始めた新たな生活に、風土に育まれてきた変わらない良さを見つけていきたい。

(加藤菜瑠)