「映画館通り」という、日本でも類を見ない通りが存在する盛岡に生まれ育った僕にとって、映画を好きになるのは少しも不思議なことではありませんでした。物心つかないうちから映画館に行き、パンフレットを眺め、ペンを握っては映画のワンシーンともいえないような絵を描いていました。

 小学校4年生の時だったでしょうか、大阪から転校して来た原くんという男の子とブライアン・デ・パルマ監督の映画「アンタッチャブル」を観(み)て、そのあまりのカッコ良さに興奮し、映画館通りから当時住んでいた松園まであれこれ話しながら歩いて帰ったために帰りが夜になってしまい、心配した親にめっぽう叱られたのを覚えています。

 将来なりたいものはたくさんありましたが、自分で映画を作りたいという思いは大人になってからも捨てられない夢になりました。今思えば、「物語」というものに強く惹(ひ)かれていたのかもしれません。大人になった今でもなお、脚本家・演出家として拙い物語を紡ぎ、俳優・声優として物語の中で生きたりしています。

●救い

 10代も半ばになると、多くのものに触れることで、いろんなことに「気付いてしまう」と思います。自分より絵がうまかったり、足が速かったり、テストで高い点数を取るやつはたくさんいること、好きな子が自分を好きになってくれる可能性、世の中にはダメな大人が思った以上に多くいること…そして、自分が好きなものがもしかして自分には向いてないんじゃないか、と「気づいてしまう」。今年44歳になった僕ですが、自分で映画を作るという夢はいまだにかなえられておらず、向いてないんじゃないか、なんて思いは数え切れないほど感じてきましたが、まだ諦められていません。

 こんなことを言うと「夢は諦めなければ必ずかなう」だとか「逃げずに立ち向かえ」みたいなことを言いたいんだろうと思われるかもしれませんが、そうではありません。もしこれを読むあなたが何かを志していて、それが自分を追い詰めるほど、それ自体を嫌いになってしまうほど、自分を壊すほどに向いてないことに気付いたのであれば、諦めたって、逃げたっていいと思います。それは将来の夢もそうだし、周りの友人や大人たち、家族ですらそうです。あなたの人生を生きられるのはあなただけですから、諦めること、逃げることが救いになるのなら、そうしていいんだと思います。

●憧れ

 なぜなら、何かを始めるのに、年齢制限なんてそれほどないからです。もちろん世界レベルのアスリートになりたいのであれば、年齢が上がれば上がるほど難しくはなるでしょうが、全く不可能なことではありません。「今は距離をとってみよう」と一度諦めたり逃げたりして新しい何かに目を向けた時、自分に向いている、あるいは居心地のいいものに触れるかもしれません。実はそれこそが近道だったりすることも少なくなかったり。

 そんな僕も、30歳から声の仕事を始め、44歳で初めての写真集を出しました。相当遅咲きですし、向いてるか向いてないかは正直まだわかりませんが、新しい景色を見たことによって得たものはとても大きなものだったと感じています。ファンの方からのお手紙に、そんな僕の活動を見て、諦めていたフィギュアスケートを再び始めた、という方がいらっしゃいました。30代の、お子さんをお持ちの方でした。僕の方が元気をいただいた気持ちになりました。

 もちろん、あなた自身が健やかでさえあれば、よそ見せずに、逃げずに、諦めずに努力し続けることも大変素敵なことですから、そのまま突き進んでください。そして、誰かの憧れになってください。

 今がちょっとしんどいな、という方は、周りの人に大きな迷惑をかけたり、道徳的・倫理的に良くないことでない限り、たくさんのものに目を向けて、触れてみてください。たとえばRPGは、最短でクリアすることだけに価値があるわけではありません。まだ足を踏み入れていないフィールドに進んだり、ミニゲームやミニイベントでアイテムをそろえたりする。もしかしたらその方がゲームを楽しんでいるという見方だってできるかもしれないし、もっと言うなら、そのゲームを手放せば、もっと面白いゲームに出合えるかもしれない。

 後悔したっていいし、失敗だってたくさんしてください。繰り返しになりますが、あなたの人生を生きられるのはあなただけです。最短コースで進んでも、たくさんの回り道をしても、それはあなただけの「物語」です。いつかお会いすることがあったら、ぜひその「物語」を聞かせてください。楽しみにしています。

(寄稿)

 浅沼 晋太郎さん(あさぬま・しんたろう) 多摩美術大卒。声優のみならず脚本家、演出家、俳優、コピーライターとして幅広く活動。06年テレビアニメ「ZEGAPAIN―ゼーガペイン―」の主人公ソゴル・キョウ役から声優として活動を始める。「A3!」茅ケ崎至役、「ヒプノシスマイク」碧棺左馬刻(あおひつぎ・さまとき)役など出演作多数。盛岡市出身の石川啄木と金田一京助を主人公にしたテレビアニメ「啄木鳥探偵處(きつつきたんていどころ)」(岩手めんこいテレビで放映中)で啄木の声を担当している。44歳。盛岡市出身。

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 いまを大切に生きてほしい。連載企画「私のアオハル」は、県内外で輝く大人たちが自身の高校時代を振り返り、アオハル(青春)を生きる高校生へメッセージを送ります。