「演劇をやっていなかったら、実家にいて津波で流されていたと思う。演劇に助けられたから、演劇で役に立てることが喜びだ」。大槌町で2月に開かれた第5回おおつちバラエティーショーの後、胸をなで下ろした脚本・演出の横浜千尋さん(30)の使命感に心を打たれた。

 今春以降、多くの出演者の町外進学や転勤が見込まれ、開催は今回が最後になるかもしれない-。横浜さんは旅立ちを控える役者の心境を物語に重ね、例年以上に個性や思いを尊重したシーンを組み入れた。みんなが納得できる舞台にしようと何度も台本を書き直した。

 横浜さんは東日本大震災発生時、関西の大学で演劇を学んでいた。夢だった役者を道半ばで考え直し、「復興の役に立ちたい」と数年前に帰郷。今公演後、「自分が本当にやりたい演劇はこれだった」と涙ぐんだ。

 出演者として、稽古を通じて楽しく真剣に地域と向き合えたことを誇りに思う。誰かの笑顔につながっていたとしたら、この上ない喜びだ。

 震災から9年。私が取材を重ねた2年の間に、同町の復興の節目に多く立ち会った。おしゃっち開館、三陸道大槌インターチェンジ開通、大槌駅開業-。そのたびに少しずつ増えた町民の笑顔が胸に残る。今月は町内の仮設住宅団地が閉鎖される。一歩ずつ復興完遂への道を進む「槌音(つちおと)」を聞き続け、町の未来に希望を膨らませている。

(八重畑龍一)