新トレ@北良

 「社会に関心を持ち、情報を見定め、自分の言葉で伝える力を」-。医療用ガスなどを製造する北良(北上市和賀町、笠井健社長)は、4月入社予定の内定者研修に岩手日報社のNIB講座「新トレ(新聞トレーニング)」を取り入れた。内定者は、2回の講義と記事要約の添削指導を通し、新聞から情報を得る方法と自分で考える姿勢を身に付け、「仕事に何が必要か、自分は何をするべきか-を考えるツールとして新聞を使っていきたい」と、情報を生かす社会人への意識を高めた。

内定者研修に導入 要約重ね文章力も

 講座は昨年12月17日と今年1月24日、「新聞は社会人のテキスト」をタイトルに開催。内定者4人全員が受講した。

 初回は「効率的な新聞の読み方」と「仕事に生かせる記事的文章」。効率的な読み方は、ジャンル別の紙面構成を生かし見出しを中心に読む速読法、最重要事項が書かれた第1段落に注目した読み方など新聞からスピーディーに情報をつかむコツを本社記者が説いた。

 記事的文章では▽新聞記事は重要度の高い順に書く逆三角形▽短いセンテンス▽段落ごとに内容をまとめる▽接続詞など不要な言葉を極力省く-など「記者の技」を伝授。「報告書や企画書を書く際に生かせる文体」と説明した。講義後は「短く、やさしく、正確に」に注意し記事の要約に取り組んだ。

 受講者は「新聞への抵抗感は読み方を知らなかったことが原因だと気付いた。実は、親しみやすく、扱いやすいツールだと感じた」「長文より短文の方が意図が伝わりやすいことが分かった。一方、短くまとめる難しさを痛感した」と新聞の利点に気付き、簡潔・明瞭な文章を書く必要性を学んだ。

 受講者は、1回目の講座以降、2回目の講座まで要約の添削指導を受けた。毎週2回、自宅に届く本紙から▽北良の仕事に生かせると考える記事▽仕事をする上で参考になる記事-を選び▽記事を選んだ理由▽要約▽感想・意見・アイデア-を書き計5回提出。講師の記者が添削しフィードバックした。

 当初、苦労した要約だが、最終段階では内容を的確に把握し、話し言葉と書き言葉が混在していた文章も簡潔に。「ポイントを正確に捉え、短く分かりやすく伝えるコツが少しだけ身に付いた」「読む力と語彙(ごい)力の向上を実感している」と効果を感じていた。

 2回目の講座は「ビジネス文書の書き方」。受講者は、標題を示す際の注意点や報告書、企画書、依頼状などのポイントを学んだ。演習は「研修の報告書を書く」。講義や添削指導でつけた文章力を発揮。新聞記事のように短い文で分かりやすく報告書をまとめた。

 新卒採用チームマネジャーの菅原綾音さん(28)は「みんな、読み方を学び、新聞から情報をキャッチする手法を覚えたようだ。文章も、要約の回数をこなし、端的にまとめる力がついたと感じる。職場で生かしてほしい」と期待する。

 ▽新聞から情報を拾うことに慣れる▽語彙力、文章構成力をつける▽一見、必要ないと思える知識を身に付ける-を目標に毎日、新聞を手にしてきた北良内定者。笠井社長は「最近は活字を読む絶対量が落ちているが、地方紙は地域を知る有力ツール。自分が何をやりたいか-を教えてくれる。情報を広く深くつかんでほしい」と見守る。


「自分の頭で考える」が鍵

笠井健社長インタビュー

 若手の人材育成について「『自分の頭で考える』がキーワード」とし、さまざまな手法を取り入れる北良の笠井健社長(45)に、内定者研修への新トレ導入の意義などを聞いた。

(聞き手:NIE・読者部 礒崎真澄)

「新聞を読むと、たくさんの異なる意見に出合える。そのことが判断の物差しを増やし、発想を豊かにする」と語る笠井健社長

-内定者に新聞を読ませた狙いは。

 「一番は地域、社会を知ること。新聞の持つ幅の広さ、伝え方や幅広い年齢層・地域への情報アクセスを紙面で体験し、スマホやネットに偏りがちな情報の接点を広げたいと考えた。バーチャルなものからリアルなものに目を向けさせることだ」

 「二つ目は文章力。記事が伝えていることを読み取り、自分の言葉で伝えることは、論理的な思考力を養う。世間の関心や人に伝えるための視点も学ぶ。学校ではあまりできない。今回のように新聞を活用したことは私たちもなかった。いいトレーニングだった」

-ネット系と新聞で情報の伝え方は違うか。

 「もっとも違う点は、隣の記事が目に入ること。共通項は『今日の記事』だが、テーマも切り口も深さも全く違う。ネットは情報を知るには便利だが『単品のニュース』。紙面では、一つの出来事の社会における重要性や関連性を感じられる。例えば、住宅もあれば工業団地もある社会の構成に似ている。経済の問題があり安全保障、憲法、地域おこしもある。地図のようでもある。ニュースを俯瞰(ふかん)して見る力がつく」

-若い社員への希望は。

 「社会を見定める目を持つ社会人になってほしい。顧客の考えや置かれた状況を深く理解し、問題を解決する力を磨くことが必要。『自分の頭で考える』がキーワードだ。発想の幅と奥行きが広がる。近年、システムができすぎ『考える人』が減っている。『この方法が良いか悪いか、最善か』と考えない」

 「言われたことだけとか、誰かが作ったルールで仕事をするのではなく、ルールを変えたり、作り出す能力が必要。上司が部下の邪魔をしないことも大事になる」

-こち亀(こちら葛飾区亀有公園前派出所)を研修に使っている。

 「4、5年前から若手のアイデアで始めた。時代から学ぶことは多い。社会は変わり人類は進化する。そのとき何が起きるか、時代を見る目を養うことが肝要だ。その中で『こち亀』を読ませてきた。サブカルチャーが多く、人の心、時代を映すアイテムがたくさん出てくる。アンテナを多く持つイメージにつながる。また、コミュニケーションは愛情。関心を持つことだ。価値観の背景を知ることで、30~70代の人とも話が合う」

-若手社員には、情報とどう向き合ってほしいか。

 「時間軸や地域の幅、人間の思考など、情報の奥行きを見定める力を培ってほしい。自分の考えが世間の見方と違うことを報道で知ることもある。たくさんの視点、物差しを持つことで情報に一喜一憂しなくなるし、自分とどうつながるかを考え『鼻が利く』ようになる」

 「そのためには違った意見を見聞きすることだ。学生時代、図書館で一番読んだのが業界紙。いろいろな新聞を読み、どんどん発想が湧いた。情報量の多い時代、大切なのは原理原則。疑ってかかり、誰にとってメリットがあるか、デメリットがあるか、自分にどうかかわるか、判断する力が大切になる」


新聞を会話に生かす・後藤杏香さん

 新聞は、ページごとに記事内容が決まっていて扱いやすいと感じた。幅広い話題に注目でき、見出しを眺めるだけで社会の動向を知ることができる。分からない略語や地名は、調べてノートにまとめた。今回の研修を生かし、新聞を活用して情報収集を行い、入社後のコミュニケーションに役立てたい。

情報比べ自分の考え・斎藤匠太さん

 会社に関連する記事を探していると、ほかの記事も目にとまり、社会への関心が広がった。新聞とテレビニュース、コメンテーターの意見を比較し自分の考えを持つ訓練をしていきたい。添削指導やビジネス文書の書き方では、ポイントを整理し端的に記す重要性を痛感した。日々、意識していこうと思う。

地域課題、紙面で発見・山本恵子さん

 新聞は実家でたまに読む程度で、研修当初は毎日読むのが大変だった。読み続けていくと地域の話題や気になる記事が多く、面白いと感じた。文章の書き方も学び、添削を受ける中で自分の欠点が明確になった。今後は優先順位を意識して、分かりやすくまとまった文書を書けるように心掛けたい。

「伝わる文章」を学ぶ・蛇岩翔太さん

 新聞はバイト先で目を通す程度だったが、研修を通じ、じっくり読むようになった。新聞はたくさんの情報を提供している。一つ一つ丁寧に読めば、会話のきっかけのほか、仕事の企画にもつながると感じた。文章の書き方講座では、情報を盛り込むだけでなく、相手に伝わるように書く大切さを学んだ。

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