リレーエッセイ イワテライフの楽しみ方

長澤一浩さん第4回(全4回)

 
コーヒーの不思議な力を感じた経験が、今の店の礎に

 エッセイの最終回は、私の大切な記憶についてです。

 2011年に発生した東日本大震災。未曽有の災害が東北を襲いました。盛岡にいた私は直接の被害こそ少なかったのですが、着工間近まで進んでいた開業計画を白紙に戻すしかなくなり、途方に暮れていました。まだ先のことも決まらぬままでしたが、何かの役に立てればと、コーヒーのボランティアで避難所巡りをしました。そこで、想像以上に喜んでいただくことができ、たくさんの笑顔と出合え、さらには「こんなところまで来てくれてありがとう」と言葉を掛けられ、逆に私が励まされました。コーヒーがあることでそこに安らぎが生まれ、笑顔や癒し、穏やかな空気が流れていく。その時、表現しがたいコーヒーの不思議な力を感じました。

 その経験は私に「コーヒーの力」を信じる勇気を与えてくれ、諦めかけた夢をもう一度奮起させる強い気持ちにつながりました。そして、計画を大きく変更したものの翌年に開業。コーヒー好きが高じて開業を目指していた私に、コーヒーを提供することの本当の意味を教えてくれたあの経験は、今の『Nagasawa COFFEE』の礎です。今でも店舗を運営していくうえで大切にしている、忘れることのない記憶です。

 

今月の人 長澤一浩さん
盛岡市出身。2012年1月に盛岡で自家焙煎コーヒー店『Nagasawa COFFEE』を立ち上げ、2018年に店舗を移転してスペースを2倍に拡大。2019年にはアメリカのコーヒーメディア『Sprudge』 が選出する「コーヒーの仕事を通じて世界を変えている20人」に日本人で唯一選ばれ、注目を浴びる。