ギュッッポッ。

 不穏な音に思わず立ちすくむ。エイリアンが登場するSF映画でしか聞いたことがない。

 音の正体はタコ。釜石市の仮宿(かりやど)漁港で、水揚げされたばかりのタコが大きなバケツに次々と移される。放り込む合間にも、脱出を試み長い足を伸ばす。あっけにとられる私をよそに、華麗な手つきで吸盤を剝がし、あうんの呼吸でふたをする漁業者夫妻。圧巻の手さばきだった。

 生き物と向き合う人々の取材では、そのバイタリティーに勇気をもらう。アワビ漁の最盛期、夫に先立たれた今も一人で海に繰り出す漁業女性(78)に出会った。中学2年から始め、妊娠中も欠かしたことがないというから驚きだ。

 海洋生物の強い生命力にも触れた。東京大の研究者が中学生向けに行ったアワビの殻を使った実習。殻に残る直径1ミリほどの小さな穴はマダコの捕食痕で、大抵はあっても一つ。痕が二つある殻を手にした助教は「一度捕まえられたが、逃げて生き延びた証し。二度目はダメだったようだ」と教えてくれた。奮闘するアワビの一生が想像でき、心をくすぐられた。

 大自然とそこに挑む人々から生命力を感じた一年だった。いただいた刺激を世に返せるくらい、私も力を蓄えていかなければ。

(加藤菜瑠)