沿岸に着任してから7カ月余。たくさんの「残したい」という思いに触れた。

 コロナ禍で各地の祭りが中止となった今年、独自で演舞の機会を探る郷土芸能団体は少なくなかった。

 大槌町の臼沢(うすざわ)地区では、大槌まつりの代わりに、臼沢鹿子踊保存会が地域の例祭を約10年ぶりに復活。奉納舞をささげた。かがり火の音だけが聞こえる静かな宵に、おはやしや太鼓の音が鳴り始める。鹿子のダイナミックな舞が、かすかな明かりに照らされた。

 疫病が流行したはるか昔の口伝を元に、祈りを込めて行われた例祭。暗がりにともる伝承館に集う人々を見て、何十年、何百年前もきっと同じような光景があったのだろうと不思議な感覚になった。

 舞台を実施した団体、断念した団体とも代表者がそろって口にしていた言葉がある。「私たちにとってたった1年でも、子どもたちにとっては長い」。伝承への危機感と同時に、継続を願い、子どもたちの未来を思いやる気持ちに胸が打たれた。

 「残したい」との思いに触れるたび、過去の誰かも大切につないできたのだろうとうれしくなる。一方、どんなに思っても残せなかったものがあるのも事実。たとえ形として残せないとしても、思いを「遺産(レガシー)」として紙面に刻む使命は果たしたい。

(加藤菜瑠)