寒冷地でも通年収穫

豊かに実ったトマトを確認する若江俊英社長。ICTを生産性向上につなげている=10月19日、盛岡市猪去

 情報通信技術(ICT)が、岩手県の農業の可能性を引き出している。トマト生産の盛岡市猪去(いさり)のいわて若江農園(若江俊英社長)はコンピューター制御で最適な生育環境をつくり、通年収穫を実現。年間収量は県平均の約6倍に達した。先端技術で生産性を高める試みが広がりつつある。

 同社は、20アールの鉄骨ハウス2棟にICTを導入している。隣室のモニター画面には、各種センサーが24時間測定する温度や湿度、二酸化炭素濃度などの量を折れ線グラフで表示。ヒートポンプや炭酸ガス発生装置、窓の開閉などと連動し、トマトを栽培するハウスの最適な環境を保っている。

 寒冷な岩手県では、ハウス栽培でも収穫は6~10月ごろに限定される。同社はICTを採用し、通年で収穫できるようになった。これにより、2019年7月までの10アール当たりの年間収量は県内の民間事業者で初めて40トンに達し、県平均の7トンを大幅に上回った。季節を問わず出荷でき、パート全13人を通年雇用している。

ハウス内に設置している炭酸ガス発生装置(手前)と暖房機(奥)。コンピューター制御で、トマトの最適な生育環境を調整している

 最適な生育環境を保つには定期的なデータ検証が欠かせない。毎週金曜日に、県の農業普及員を交えた社内ミーティングを開催。生育状況の調査結果などを基に、翌週の環境設定や管理方法を決める。検証を繰り返し、将来は年間収量50トンを目指す。

 若江社長(48)は、10年ほど前に会社員から転身。勘と経験に頼った従来型の農業から、データに基づく農業への転換を図ってきた。「管理の精度向上はピカイチ。これまでの農業は職人技に頼るところが大きかったが、データの蓄積があれば、より良くするための議論もしやすい」と有効性を説き、「他産業に負けない所得水準に引き上げたい」と力を込める。

 環境制御技術は同社が16年、国の補助金を活用し県内で他に先駆けて取り入れた。県によると、19年度末現在で14経営体が用いる。県が導入費用を補助する制度もある。

 農業は人手不足が深刻化している。農林業センサスによると15年の県内農業就業人口は7万357人で05年比38・3%減少。平均年齢は67・4歳で3・5歳上昇した。こうした中、生産力を維持するにはICTの普及が重要性を増す。一方でスマート農業の知識が不足する農家は多く、情報発信力の強化が問われる。

 県は北上市の県農業研究センターに環境制御システムを取り入れたハウスを整備し、収量増や作業負担軽減などの実証成果の普及を図っている。さらに本年度は、軽米町の県北農業研究所にも拠点の整備を進めており、県北地域で作付けが多いキュウリを対象に実証に取り組む。

 ICT導入は高額な初期投資を要するため、個人経営農家にとってはハードルが高いのが現状。県農産園芸課の中森久美子園芸特産担当課長(53)は「より低コストで導入しやすい制御機械や技術の開発も進めており、経営状況や規模に見合った導入支援を進めたい」と語る。

 産地力の強化に向け、先端技術と向き合う必要性が高まっている。

(岩手日報社)

 

期待の声
 

驚くほど収量が増加

武蔵卓也さん

 環境制御ハウスで生産性を高める試みは、現場に浸透し始めている。トマトを生産している盛岡市上太田の武蔵ふぁーむ(武蔵卓也社長)は、2019年9月に鉄骨ハウスを整備し、今年6月末までに1作目の収穫を終えた。収量は従来の3倍程度まで向上し、武蔵社長(42)は「びっくりするほど取れた」と手応えを語る。

 通年栽培が可能になったことで、従業員の通年雇用が実現した。水稲を組み合わせた複合型の経営を実践しており、「これまでは繁忙期に合わせて人手を確保するのが大変だったが、冬場も雇用を維持できるメリットは大きい」と実感する。今後はハウスの増設を予定している。

 環境制御に必要な知識を学ぶため、同様に取り組む生産者と一緒に県外の現場へ視察に出向くなど、情報交換の機会を大事にする。「お互いにレベルアップを図りながら、他の地域に負けない産地をつくっていきたい」と意気を高める。先端技術を武器に、貪欲に生産のレベルアップを続けていく。

産地確立へ集中支援

小原繁さん

 岩手県は、園芸産地力の強化に向けて、現場への情報通信技術(ICT)の普及に力を入れる。農業普及員が生産者と連携しながら、最新のデータを集め、収量アップに向けた指導を行っている。先進的な事例は、後に続く経営体と共有している。

 県農業普及技術課の小原繁総括課長(57)は「現場では周年生産や雇用創出などの成果が徐々に出てきており、後継者育成の面でも期待ができる。トマトで先行しており、キュウリなど他の果菜類でも展開できればいい」と見据える。

 導入経営体への集中支援チームをつくり、チーム同士が情報を共有することで、全体の底上げを図るほか、オーバースペックを防止するための研究も行っている。「チャレンジする人をしっかりとサポートし、仲間を増やしてもらうことで、産地を確立させたい」と展望する。