地域を創る新しい力① 山形・尾花沢のスイカ生産
重労働緩和で効率化

夏スイカの生産量で日本一を誇る山形県尾花沢(おばなざわ)市の「尾花沢すいか」。糖度が高く、みずみずしく締まっており、しゃりっとした食感は人気が高く、地域経済を支える柱の一つになっている。一方、生産者の高齢化が進み、重労働の省力化は喫緊の課題だ。
県などは2019~20年度、農林水産省の「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」の採択を受け、「スマート農業技術によるすいか生産イノベーションプロジェクト」を展開している。同市内の生産者や農機メーカーなどと連携し、情報通信技術(ICT)を活用した作業時間の短縮や生産管理の効率化に関する実証を行った。

挑戦した技術は▽熟練度に左右されない圃場準備作業の高能率化▽炭疽(たんそ)病発生予測に基づいた効率防除▽スマート技術に対応した栽培▽出荷予測に基づく有利販売の実践▽アシストスーツなどによる労働負荷軽減▽一元管理ソフトによる営農改善-の6項目。10アール当たりの労働時間を現行の180時間から120時間まで短縮し、収量を4・8トンから5・4トン以上に拡大する目標を設定した。
スイカ栽培は畝の準備やビニールシートを張ったマルチトンネルの設置など、重労働が多い。自動操舵(そうだ)のトラクターを使うことでさまざまな工程が集約でき、経験が浅くても短時間での作業が可能となる。10アール当たりの作業時間を12時間から4時間に短縮するのが目標だ。
一方、トラクターの走行路を整備することで、栽培面積は従来の70%ほどになる。収穫量の低下を防ぐには1株から実を結ぶ量を増やす必要があり、つるの伸ばし方を工夫した多収栽培にも挑戦した。19年度は10アール当たりの収量が22%増加し、作業時間は28%削減された。20年度は天候不順などで収穫量が思うように伸びず課題を残す結果となったが、作業負担の軽減につながることは示された。
スイカの収穫時期は交配日からの積算温度が目安となっているが、見極めは生産者の経験に頼る部分も多い。最新技術では圃場にあらかじめ交配日を示した目印を立て、小型無人機(ドローン)で画像を解析することに挑戦した。積算温度のデータと連動させることで収穫期が予測できるようになった。
プロジェクトは本年度で終了するが、今後もスマート技術の研究を進め、28年までに栽培面積777ヘクタール(16年721ヘクタール)、産出額70億円(同58億円)、1戸当たりの栽培面積160アール(同90アール)まで拡大することを目指している。
「超えなければいけない技術の壁はあるが、苦労はいつか実を結ぶ」と県の担当者は話す。山形が誇るスイカ産地の発展を目指し、挑戦は続く。
(山形新聞社)
実態に沿った進化を

尾花沢市のスイカ生産者沼沢克己さん(34)は、プロジェクトのために2年間にわたり90アールのスイカ園地を実証圃場として提供し、栽培にも取り組んだ。スマート農業は次世代農業として期待が高く、将来的に必要になると感じつつ、生産現場だからこそ見えてきた課題もあるようだ。
例えば、荷物を持ち上げる動作を補助するアシストスーツ。重いスイカの実を抱え上げる生産者の負担軽減に有効だと考えられたが、実際はしゃがんだままの作業が多く、機能を十分発揮できなかったという。また、新たな省力・多収栽培も従来の作業とは勝手が違うため、経験者にとっては慣れるまでに時間が必要だという。
沼沢さんは「ICTを活用する発想はすごくいいが、まだ現実と理想にギャップがある」と指摘する一方、「将来的にスマート農業は必要だ。今回収集したデータを基に、より現場の実態に沿った技術に進化させていければ」と先を見据えた。
将来実用化へ手応え

プロジェクトのまとめ役として奔走したのが、山形県農業総合研究センター園芸農業研究所の主任専門研究員斎藤謙二さん(47)だ。最先端技術と農業の融合は試行錯誤の連続だったが、「実用化に向けて期待できる技術もあった」と手応えを感じている。
各実証試験の中で、特に将来性を感じたのが自動操舵(そうだ)トラクターの導入だ。衛星利用測位システム(GPS)の基地局を設置した場所から20キロの圏内であれば、誤差0~20センチほどでの操作が可能だという。斎藤さんは「運転の経験があまりない新規就農者でも正確に作業できるようになる」と期待を寄せる。スイカの出荷予測システムについても、生産者の経験に加え、データを見える化することで、より正確な収穫と、効果的な販売に生かすことができている。
斎藤さんは「10年、20年後の産地を思いながら、最先端の技術が役立つようにしたい」と力を込める。