2020.10.22

挫折 自分見つめ前へ

学生時代の脳出血で高次脳機能障害を負った阿部類さん。見た目からは障害者と全く分からないが、仕事では挫折を味わってきた=盛岡市大通
学生時代の脳出血で高次脳機能障害を負った阿部類さん。見た目からは障害者と全く分からないが、仕事では挫折を味わってきた=盛岡市大通

高次脳機能障害

阿部 類あべ・るいさん(34)=児童指導員、盛岡市三本柳

 

②就労の困難

 阿部類さんは2014年3月に県立大大学院の社会福祉学研究科を修了すると、県内の自治体で非常勤で働き始めた。記憶力などに支障があることは伝えたが、障害者枠でなく、一般枠での就労を選んだ。

 仕事は生活保護世帯の生活状況の確認だった。対象の家庭に電話連絡して訪問し、生活の様子を聞き取った。学生時代、カフェで長くアルバイトをするなど人と話すことは好きだった。

 ただ、生保で関わる相手には、対応の難しい人もいた。自身の障害も改めて自覚せざるを得なかった。

 「相手が電話に出ないとか、訪ねても不在がすごく多かった。事前に決めたスケジュール通りに訪問できないと予定を変更することに時間がかかり、パニックになった。誰かに付いて歩くことはできても、1人だとどこから手を付けていいのか分からなかった」

 指示がないと行動できなかったり、段取りをうまく整えられないのは高次脳の症状の一つ「遂行機能障害」に当たる。症状は良くなっていても、決して治ってはいなかった。

 3カ月ほどした雨の日、仕事に行くのが苦でたまらなくなった。車を止めた立体駐車場で、ふと想像した。「ここから飛んだら…」。大学に復学する前の自殺未遂の記憶がよみがえった。「これじゃ前の繰り返しだ。死ぬぐらいなら逃げよう。続けた方が周りの人たちに迷惑を掛ける」。退職を願い出た。

 一般枠の就労は、大学で社会保障制度などを研究したことが頭にあった。「自分が福祉制度を利用したら甘えてしまう。ちゃんと働けるし、厳しい状況の方が早く回復できるはず」

 社会に出て初めて、そんなこだわりやプライドが自分を窮屈にし、社会への順応を滞らせていることに気づいた。脳出血から4年近くを経て決心した。「障害者として生きる」。精神障害者保健福祉手帳(2級)を取得した。

 県内の大学の図書館に1年ほど勤めた後、農業関係の団体に再就職した。手当などが良く、数カ月働けば正規雇用という条件も歓迎だった。

 事務職だった。来客の受け付けを任されたが、壁にぶつかった。見た目からは分からないが、高次脳による記憶障害のため、来客の名前や用件を聞いたそばから忘れた。

 「メモをすればいいと言われて用紙に書くけれど、書いている途中から頭の中がごちゃごちゃになる。フロアのどこで誰が働いているかも覚えられず、ものすごくストレスを感じた」

 来客対応などが困難なことは就職する際に話していたが、一般職員には満足に伝わっていなかった。初めて障害者枠で人を採用した職場の現実を思い知らされた。障害への配慮が足りない異動や、パワハラと感じる言動にも直面した。

 何やってんだ。使えない―。言葉ではなく、そんな雰囲気が何より「しんどかった」。

 結局、2年余で退職した。自治体と農業団体。2度の退職を「挫折と言えば挫折」と振り返る。同時に「次のステップに進むためのハードルだった。長く働き続けるため、自分の好きな人生を送るため、どうしたらいいかを見つめることができた」と感じる。

 そして確信した。「自分は障害者と支援者(社会福祉士)の両方の立場が分かる。同じようにつらい思いをしている障害者はどこにでもいる。好きなことでないと続けられない。福祉の仕事がしたい」

 リハビリからやり直すことにした。18年夏、国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)に入所した。

 

 精神障害者保健福祉手帳とは 精神障害が一定の程度にあることを証明し、所持により税優遇、公共交通料金の割引などが受けられる。状態が重い順に1~3級の等級があり、支援内容は異なる。対象の精神疾患(機能障害)は▽統合失調症▽気分(感情)障害▽非定型精神病▽てんかん▽中毒精神病▽器質性精神障害▽発達障害▽その他疾患。高次脳機能障害は器質性精神障害に含まれる。阿部さんの2級の定義は「精神障害であって日常生活が著しい制限を受けるか、日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」。県内の手帳所持者(19年度末)は1万1947人(1級3768人、2級6379人、3級1800人)で増加傾向にある。

 

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