元徴用工問題に端を発した日本と韓国の対立で、韓国は世界貿易機関(WTO)への提訴に続き輸出管理優遇国から日本を除外。両国関係の泥沼は不気味な熱を帯び、マグマとなって後戻りできない事態に陥りそうな気配が漂う。

 元徴用工問題に関し、1965年の日韓請求権協定に基づく「国同士の約束」で解決済みとする日本の主張は、国際社会も受け入れやすいと思われる。だが以後の展開は、いかに日本政府が弁明しようと第三国には報復合戦と映っても仕方あるまい。

 日本が韓国向け輸出の規制強化に踏み切れば、韓国は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄決定を通告。WTOへの提訴や日本の優遇国除外など、対抗措置は矢継ぎ早だ。

 その背景に疑惑に揺れる側近の法相任命など、内政の混乱をかわす狙いをかぎ取る向きがある。来年4月には総選挙を控え、歴史問題で日本に厳しい革新層の支持を受ける文在寅(ムンジェイン)大統領の当座の政治的事情も指摘される。

 一方で日本側にも「事情」はありそうだ。半導体材料3品目の韓国への輸出規制を日本が打ち出したのは、7月の参院選直前。保守系の支持が厚い安倍政権が、選挙を意識したのは想像に難くない。

 内閣を再改造して、政権の「総仕上げ」を目指す安倍晋三首相としては、韓国への対応は求心力に関わる。双方に引くに引けない状況が推察されるのは、関係が泥沼化する要因と言える。

 だが、問題がこじれた端緒に、元徴用工問題で、請求権協定に基づく対応を求める日本側に無反応を決め込んだ文政権の姿勢があるのは否めない。民族主義的傾向が強い文政権下、「国同士の約束」がある従軍慰安婦や元徴用工問題が外交課題として再燃したのは偶然ではあるまい。

 元駐韓大使の小倉和夫氏は東京での講演で、日本には日韓関係を上下でみる傾向があると指摘した。前外相の「無礼者」発言は象徴的だ。韓国の国内総生産(GDP)は2018年に世界11位。日本は3位だが、国民の生活実感は「今やほとんど同じ」と小倉氏は強調した。

 一方で文政権下の韓国も、見えているのは戦前の日本ではないかと思われる。文氏が「今度こそは日本に負けられない」との趣旨を繰り返すことへの戸惑いは、日本ばかりか韓国国民にもあるだろう。保守色の強い安倍政権の1強状態が続くとはいえ、軍国主義に結びつけて日本を非難するのは現実的ではない。

 「過去にこだわるものは未来を失う」(チャーチル)との格言もある。文政権は、敗戦から70年余を経た「今の日本」に向き合ってほしい。