怒り、悲しみ、無力感。悲惨な児童虐待事件が、社会に突きつけていることは何か。孤立を深めた子育ての果てが暴力となって家庭内で最も弱い存在に向かう。「助けて」のシグナルもあったはず。だが、幼い命がまた奪われた。

 鹿児島県出水市で8月末、4歳の大塚璃愛来(りあら)ちゃんが亡くなった。死因は溺死。暴行容疑で逮捕された母親の交際相手の男は「しつけだった」との趣旨の供述を繰り返しており、死亡の経緯などについても捜査が進む。

 璃愛来ちゃんは夜間に1人で外出しているところを県警が何度も保護し、一時保護の必要性を児童相談所に伝えていた。しかし児相は、母親の育児放棄(ネグレクト)を認定したが一時保護は見送る。児相の対応や関係機関との連携不足などが、璃愛来ちゃんを救う機会を逃した。

 虐待を受けて亡くなった子どもは2017年度、全国で65人いる。東京都目黒区で昨年3月に亡くなった船戸結愛(ゆあ)ちゃん=当時(5)=もその一人。保護責任者遺棄致死の罪に問われた母親に対する公判が今月始まった。

 父親の虐待を止められなかった背景に、執拗な心理的DV(ドメスティック・バイオレンス)があったと弁護側は主張。理不尽な支配に依存せざるを得ない、異常ともいえる関係性が浮かび上がる。

 多くの加害者が「しつけ」と言う。体罰としつけの境界は何なのか。改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が来年4月に施行される前に、政府は分かりやすいガイドラインを明示してほしい。

 虐待への社会的関心は年々高まり、児相への相談件数は増える一途。全国の児相が18年度に対応した事案は16万件近い。虐待通告があった場合、原則48時間以内に子どもの安全を確認するルール徹底が求められ、既に多くの案件を抱える児相職員の負荷が高まっている。

 政府は、児相と市町村の体制・専門性強化を掲げ、増員などを急ぐ。だが、経験に伴う技量が大きく求められる仕事だけに、一朝一夕には進まない状況もある。

 虐待やDV、貧困といった問題が、家庭の中で複雑に絡み合う現実だ。地域から親子を孤立させず、兆候があれば速やかに支援につなげる。事件を教訓に、関係機関の連携を一層確実なものにしたい。

 国連で子どもの権利条約が採択されて30年がたつ。命を守られ成長できる権利として虐待対策は根幹をなす。かねてより、虐待防止プログラム制定など対策強化を求められてきた日本だ。

 はかない命の重みを、全力を挙げて守らなくてはならない。今もどこかで、子どもらが泣いているかもしれない。