オバマ前米大統領が広島の地を踏んだのは、2016年5月だった。「核なき世界へ勇気を」。現職大統領として初めて被爆地を訪れたオバマ氏は呼び掛けた。

 同じ年、安倍晋三首相も米ハワイ・真珠湾の地に立つ。「和解の力」を訴え、核兵器をはじめとする軍縮への期待を世界に抱かせた。

 「大変な英断だった」。長年、日米首脳による「相互献花外交」を提唱してきたジャーナリストの松尾文夫さんは、実現に踏み切った両首脳を高く評価している。

 それから、わずか3年。まるで冷戦時代へ時計が逆戻りしたかのような動きが目立つ。核軍縮への期待は急速にしぼみつつある。

 冷戦終結を後押しし、核軍縮の流れをつくった米ロの「中距離核戦力(INF)廃棄条約」が2日、失効した。軍縮に逆行する振る舞いの最たるものと言える。

 米国は表向き、ロシアの条約違反を理由とするが、背景には中・短距離ミサイルを持つ国が増えたことへの米ロ双方の不満がある。特に中国への警戒感が強い。

 条約に縛られない中国は、米領グアムに届く中距離弾道ミサイルを配備した。米国も対抗する構えで、米中ロの激しい核・ミサイル開発競争が現実味を帯びる。

 それだけではない。米軍が戦闘時、限定的に核兵器を使用する指針をまとめたと報じられた。オバマ氏は広島訪問後、核を先に使わない「先制不使用」を検討したが、それに逆行するものだ。

 核兵器を使用した唯一の国である米国は、言うまでもなく、その結果起きた惨禍に謙虚でなければならない。「核のタブー」が揺らぐことを危惧せざるを得ない。

 さらに中東では、核合意の上限を超えてウラン濃縮を進めるイランを巡り緊張が高まる。北朝鮮の非核化も大きな進展は見られない。

 オバマ氏が唱えた「核なき世界」は、風前のともしびとなっている。その中で、きょう6日に広島、9日に長崎の原爆の日を迎える。

 核保有国の動きに、唯一の被爆国・日本はどう行動すればいいのか。政府はINF条約失効を受けて新たな核軍縮の枠組みを求めるが、中国などは反発している。

 核廃絶を求める国際世論を味方に付け、時計を逆戻りさせぬ努力が必要だ。日本は、国連で採択された核兵器禁止条約に署名していないが、署名・批准を強く望む被爆者の声に耳を傾けてほしい。

 2月に死去した松尾さんは、ロシアや中国とも「相互献花外交」を説いた。和解と戦争の清算こそ、被爆国・日本の信頼が増す。その指摘は多くの示唆を与えている。