処暑を過ぎ、猛暑日が珍しくなかった今夏の暑さも暦通り峠を越えたらしい。ただ、盛夏よりも梅雨や、この時期のどんよりした気候の方が食べ物の足は早い

▼岩手では、こうした食物が傷んでいる状態を「あめる」という。「腐る」と同義かというと、明らかに腐った物には使わない。変な臭いがしたり、味が変わっていたり。標準語では、伝えきれないニュアンスを含んでいる

▼冷蔵庫がなかった昔は食べ物を台無しにすることも多かっただろう。江戸落語のねたにもなり、「酢豆腐」は知ったかぶりの通気取りに、かびの生えた豆腐を食べさせる。この話の上方版が「ちりとてちん」だ

▼東北で豆腐の話をさせれば、この人だろう。一関市藤沢町の「金はらっ亭よ~」こと皆川洋一さん。昨春まで「深萱(ふかがや)の昔とうふ」を約30年間、作り続けた

▼先日、仙台市まで足を延ばしその話芸に聴き入った。正統派とは言い難いながらも、手作り豆腐と同じようなこくと深みが感じられた。この日はかけなかったが「豆腐屋」という自虐ねたもあるという

▼話の随所にちりばめられる方言となまり。これこそ、深萱で生まれ育った皆川さんの真骨頂。江戸にも上方にもない、岩手ならではのおかしみが笑いを誘う。いつか「酢豆腐」を演じてもらいたい。「この豆腐、あめでるな」と得意の方言を交えて。