宮沢賢治という人には、ちゃめっ気もあったらしい。料亭での花巻農学校職員による宴会で、お膳を運ぶ女性の1人だけ指輪をしていないことに気付く。お金がないから、と恥じらう女性に賢治は言う

▼「よし私が買ってやる」。値段を心配する同僚には、笑って答えた。盛岡の夜店では偽のルビーやサファイアが売られている。「適当な物を買って約束を果たしますよ」。何と賢治は偽の指輪を贈ろうとしていた

▼その後日談は分からないものの、責任感の強い賢治のことだ。相手の心を傷つけぬ形で、正直に約束を果たしたのだろう。詩人の人間的な一面を知る逸話だが、同じ「偽」の話題でも、こちらは後味の悪さが残る

▼八幡平市産のマツタケと偽って、県外産が送られたという事件が尾を引く。ふるさと納税の返礼品を巡り、産地を偽装したとして業者の代表らが逮捕されたが、業者側は相手をだます意図などなかったと語る

▼前から八幡平産が不作の時は国内産に代えると明示しており、納税者に個別の連絡を忘れただけだ-と。確かに、どの産地でもマツタケはマツタケ。夜店の偽指輪のような「適当な物」に代えたのではないが

▼他県産を送って約束を果たすなら、もう「ふるさと」ではない。ふるさとの産業も潤さぬとしたら、もはや何のためか分からぬ「ふるさと」納税だろう。