安倍政権が看板とする「戦後日本外交の総決算」がかすんでいる。総決算の対象である北方領土解決への視界が不良になっているからだ。

 今月、ロシアのメドベージェフ首相が、日本の中止要請に応じず択捉島訪問を強行した。実効支配する領土の開発を急ぐ姿勢を内外に誇示する狙いだ。

 ロシアは、日ロ平和条約交渉を巡り、1956年の日ソ共同宣言に明記された歯舞群島と色丹島の2島引き渡しの協議入りも拒否しているという。強硬な姿勢が顕著になっている。

 悲願の領土問題解決のために日本側がかじを切ったのが2島返還での決着だ。「北方四島が日本固有の領土」との従来の政府の主張を封印してまでの判断だった。

 しかし、そのような配慮も実を結びそうにない。安倍政権の戦略は行き詰まったと言える。先の参院選でも、安倍晋三首相(自民党総裁)は北方領土問題を巡って、ほぼ沈黙を保った。

 ロシアが2島引き渡し協議を拒否している理由はプーチン政権内の事情にある。内政課題で支持率の低下している中、領土問題で譲歩したと国民に受け止められればさらに支持率を悪化させるとの懸念だ。

 もはや安倍首相とプーチン大統領での前進は難しいのではないか。両首脳間の個人的な信頼関係が誇示されてきたが、解決への期待は尻すぼみになっている。

 18世紀後半、欧米列強が東アジアに接近する中で、ロシアは通商関係樹立を目指し、いち早く江戸幕府と接触。一方、警戒を強めた幕府は、北方領土の警備に盛岡藩などを当たらせた。

 その後、千島列島や樺太(サハリン)を巡り国境が変遷したが、北方四島は変わらず日本の領土とされてきた。

 しかし、第2次大戦で日本がポツダム宣言を受諾した後に旧ソ連が占領。不法占拠が続いている。

 返還の「4島一括」以外の解決案は過去にも浮かんでいる。ロシアの実効支配が続く中で「2島でもやむなし」と理解する声は少なくない。

 だが、日本側の譲歩とも言える姿勢に対し、ロシアは強硬な態度だ。現在、現地での日ロ共同経済活動に関する協議が続くが、将来の展望が見えないままでは日本が利用されるだけとの懸念がある。

 戦後の大きな課題である北方領土を巡る判断は、他の国境の島にも波及する。しかし、従来の主張と異なる2島返還方針について、説明がないまま推移してきた。

 返還の機運を高めるためにも、政府は現在の立場や方針を国民に説明し、理解を得る必要があるのではないか。