愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の中の企画展「表現の不自由展・その後」が公開3日で中止となった問題が、波紋を広げている。

 元従軍慰安婦を想起させる少女像、天皇と戦争、米軍基地、政権批判など、国内では公開がままならなかった作品群に対し、テロや脅迫まがいの抗議が相次ぎ、大村秀章知事が会長を務める国際芸術祭の実行委員会は「安全な運営が危ぶまれる」と判断した。

 議論に輪を掛けたのが、政治の介入だ。県とともに開催経費を負担する名古屋市の河村たかし市長は、同展視察を経て「日本人の心を踏みにじるもの」などとして中止を要請。菅義偉官房長官は、文化庁の補助金交付を慎重に判断すると発言した。

 河村市長は従軍慰安婦問題が「事実でなかった可能性がある」として、知事に少女像撤去などを求める抗議文を提出。大村知事は「公権力を行使する人が内容にいい悪いを言うことは、憲法が禁じる検閲と取られても仕方ない」と市長の姿勢を批判した。「その後展」は、思わぬ形で「表現の自由」の現状を社会に問うこととなった。

 一方で「その後展」の実行委は「中止決定に納得していない」として大村知事宛ての公開質問状を提出。同展出品作家を含む芸術祭参加アーティスト約70人も、連名で政治的介入と暴力、脅迫に抗議する声明を発表するなど、なお議論は尾を引きそうだ。

 政治的圧力や暴力的抗議を背景とする公開中止に、作家らの無念や憤りは想像するに余りある。だが実害が強く懸念される状況で、知事の職責に照らせば中止の判断自体は一概に否定されるものではあるまい。問題は実行委内で、展示への批判や反発を想定していた節があることだ。

 芸術祭は、ジャーナリストの津田大介氏が芸術監督を担った。「その後展」は、東京都内の小ギャラリーで15年に開かれた「不自由展」を基に企画。「物議を醸し議論を起こすことに意義がある」と決行されたという。

 目玉展示の一つとされた少女像が、日本と韓国の政治的対立の象徴となっているのは周知の事実。「物議を醸す」のは予想できたとして、立場を超えて「議論」する機会とするための仕掛けは十分だったのか。知事判断に芸術監督も従った中止劇は、その面の未熟さをしのばせる。

 この経緯に、作家らが反発するのは当然だろう。津田氏は「表現の自由を後退させてしまった」と述べたが、反省で終わらせるべき事案ではない。その立場で改めて主催側と協議するなど、表現の自由を萎縮させないための「その後」に注目したい。