地域の成熟とともに住民の高齢化も進む昭和の新興住宅地にあって、近所で赤ちゃんの声がすると思わず頬が緩む。乳幼児を無条件にかわいいと感じるのは、人類の存続にかかわる本能だ

▼体の割に大きくて丸い頭、広いおでこと大きな目、未発達の小さな鼻と口、プニプニとした触感…。甘い匂いも母性や父性を刺激する。そんな存在をいとおしく思い、大事に育ててきたからこそ人類の今がある

▼赤ちゃんの特徴は、生存確率を高めるための機能と言える。チンパンジーは生まれて数年、お尻に白い毛が生えている。その間、周囲は勝手気ままを大目にみる。生物それぞれに「かわいい印」があるのだろう

▼「かわいい」の、元の言い方は「かわゆい」。一説に「顔映(かおは)ゆし」が変化した語という。「映ゆし」は、まぶしくて直視できない意。古くは「いたわしい」とか「気の毒だ」といった意味で使われてきた言葉だ

▼つまり「かわいい」と語源が同じ「かわいそう」が本来の意味。「かわいそう」が転じて守るべきもの-そう解釈すれば「かわいい」と「かわいそう」は同じ気持ちの裏表。放ってはおけないと思うのが人間だ

▼バス車内でぐずる子をあやす母親が「うるさくしてすみません」と頭を下げた。周囲の笑顔が救い。「かわいい印」への不寛容は巡り巡ってヒトの未来を危うくする。