ハンセン病患者を、東北ではかつて「どす」と呼んだ。江戸後期に岩手など各地を旅した菅江真澄が、秋田・西馬音内(にしもない)の市の様子を記している。貧しさゆえにサケの頭を盗んだ患者を、女主人がののしる

▼「どす、どろぼう、取ったものをだせ」「いや、しらね、なんのごどだ」「嘘(うそ)ぬがすな」(口語訳は細川純子「菅江真澄のいる風景」)。濁った汚らしさを連想させる「どす」とは、何と悲しい差別の響きだろう

▼にぎわう江戸期の市では、差別語が大声で飛び交っていた。それから何百年と続く偏見を、新しい令和の時代に終わらせたい。安倍晋三首相が先週、ハンセン病家族訴訟の原告に謝罪し、風向きは変わりつつある

▼ハンセン病の苦難は患者だけではない。家族も差別され、子どもはいじめられた。人々は名前を変え、逃亡を強いられた。やっと上げられるようになった声が政治に届き、悲しい言葉が忘れられていけばいい

▼今まで声を上げたくても上げられなかった人たちが、政治に加わる夏でもある。難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者と、重度障害のある人が参院選で当選した。今週開かれる臨時国会に初登院する

▼2人の活動に向け、参院のバリアフリー工事が伝えられた。岩手からも車いすの議員が誕生する。風景が変わる国会に、声なき声を届けてもらいたい。