妊婦の血液でダウン症などの胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」が、このまま拡大していいのか。学会任せだった国が、ようやく動き出した。今後、検討会を設置して議論を始める。

 新出生前診断は、従来の検査より簡単で精度が高い。安易な利用を防ぐため、日本産科婦人科学会(日産婦)などがルールを作り、カウンセリング体制が整っていると認定された15施設で2013年から始まった。高齢出産の増加などを背景にニーズが高まり、現在では約90施設に拡大している。

 ところが、そのルールに従わない無認定の民間クリニックが増加。診断結果の紙だけが送られてくるなど、十分な説明が受けられずに悩んだ妊婦が、認定施設に駆け込む事態も起きているという。

 そこで、日産婦が今年3月、新たな指針案を発表した。民間クリニックに流れるのを防ぐため、条件を満たせば規模の小さな開業医にも検査を認める内容だったが、日本小児科学会などが反発。学会間の亀裂が深まる中、厚労省が検討会の立ち上げ方針を示したことで、新指針運用は当面見送りとなった。

 一連の経緯からは、「命の尊厳」をめぐる根源的な議論がどれだけなされたのか、疑問が募るばかりだ。新出生前診断に関しては、当初から「命の選別」につながる恐れが指摘されてきた。実際、検査を受けて染色体に異常があると分かった妊婦の大半が中絶を選んでいる現実がある。

 ここで立ち止まって考える意義は大きい。検討会では、幅広い立場の思いを踏まえ、開かれた議論を期待したい。

 わが子の健やかな成長を願う妊婦。一方、「私みたいなのは将来いなくなるのかな」と、新出生前診断の拡大を自らの存在と重ね合わせて受け止める障害当事者。それぞれの思いが結び合うのは、容易ではあるまい。だが、対話のプロセスこそ大事にしたい。

 産むか、産まないかの選択を迫られる妊婦の苦悩にどう寄り添うか。産まない選択に伴う心の痛みを、どう継続的にサポートするか。

 産む選択をした場合、どのような医療や福祉的支援が求められるか。近年はテクノロジーの活用で、障害者の社会参加の可能性が大きく広がっていることも視野に入れた議論が望まれる。

 問題は新出生前診断に限らない。昨年、中国の研究者がゲノム編集技術を受精卵に使い、双子を誕生させたと発表し、世界に衝撃を与えた。

 命をめぐる技術が大きく進む中、命にどう向き合うか。国任せの議論ではいけない。妊婦それぞれの選択を支える社会になるため、共に考える契機としたい。