新トレ@東北電力

 岩手日報社が展開している新聞をビジネスに活用するNIB(エヌ・アイ・ビー=Newspaper in Business)講座「新トレ(新聞トレーニング)」。東北電力の盛岡市内の事業所は、若手社員の人材育成の一環として「新トレ」を取り入れた。地元密着型企業の一員として、身近な情報が満載の地方紙を読み、地域のニュースや課題に理解を深め、社会貢献につなげることを目指す。岩手日報社記者らが講師となり、講演やワークショップを6、7月の2カ月間で計3回行っている。

 第1回講座(6月6日)は、東北電力岩手支店・送配電カンパニー岩手支社の「地域について考える講演会」として開かれ、立正大の徳山喜雄教授が「人と人をつなぐ地方のニュース」、岩手日報社編集局の川村公司局長が「高まる地方紙の存在」と題して講演。同支店のメイン会場のほか、テレビ会議システムを使い関係会社も含め約150人が聴講した。2人は、地域と共に今を生き、未来へ歩む地方紙の報道姿勢に触れ、聴講者は、新聞を仕事に生かす視点を明確にした。

 第2回講座(同20日)は、岩手日報社NIE・読者部の礒崎真澄専任部長による講義とワークショップの2部構成。若手社員25人が新聞の読み方や書き方を学び、最後に記事の要約に取り組んだ。

 岩手日報は毎日、厳選した記事を掲載している。礒崎専任部長は、ニュース記事が重要なことから書く逆三角形の構成で、1要素を1段落でまとめる特性を解説。「忙しい朝、見出しとリードを読むだけで、その日の地域の動向が分かる。新聞は情報のインフラ。柔軟な発想、視点の持ち方でビジネスチャンスにつながるアイデアが見つかる」とアドバイスした。

 記事の書き方を学ぶワークショップでは、ポイントとして「短文ほど美文」を挙げた。簡潔で分かりやすい文章は企画書や報告書、議事録など普段の仕事に生かせる。

 受講者は集中して当日の1面や社会面の記事の要約に取り組んだ。一つの文に主語や述語が複数入って煩雑にならないように心掛けた。

 第2回受講者は次の第3回講座(7月24日)までの20日間、東北電力が教材として購入する新聞に目を通し、スクラップに取り組む。毎日、地域貢献策に生かせる記事や地域課題解決を支援できそうな記事を切り抜いてファイルに保管。第3回講座に持ち寄り、グループ討論で地域貢献策を探りプレゼンテーションを行う。

 講座企画担当の東北電力岩手支店の登坂哲朗さん(36)は「一人一人が新聞を活用してもっと地域のことを知り、企業として掲げる地域に寄り添う活動につなげていきたい」と期待を込めた。

地方紙で地域理解を 徳山教授(立正大)講演 

 「地域をよく理解することは、地域に寄り添う仕事につながる」と説いた徳山喜雄立正大教授の講演要旨は次の通り。

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「地域を理解することは、地域に寄り添う仕事につながる」と講演する徳山喜雄立正大教授

 地域のことを知るには、地方紙を読むのが手っ取り早い。岩手日報と全国紙の県内における記者数を比較すると、岩手日報はどの新聞社よりも多く、取材力が格段に高い。日報の記者は岩手に対する愛情が深く、人脈も豊富。地方紙の記者にとってはその土地が一生暮らす場所であり、良い記者は取材先との信頼関係を大切にしている。

 岩手日報の東日本大震災の報道をみると、震災直後5万人分の避難者名簿を掲載した。その後、追悼企画「忘れない」で3500人以上の犠牲者の生きざまを顔写真とともに紹介。さらに「震災犠牲者の行動記録」を制作した。どこで被災し、どこで亡くなったかを遺族に聞く取材を積み重ねた調査報道だ。これらは再発防止のために重要な仕事。日頃の取材活動を通じ遺族と築き上げた人間関係があるからこそできたことだと思う。

 東北電力の皆さんも震災のとき、復旧のために大変な苦労をしたと思う。その間、震災報道に目を向けていたように地域のニュースをよく理解することは、地域に寄り添う仕事につながっていく。住民との会話の引き出しもできるだろう。

 新聞を読み続けることで読解力や文章力が磨かれる。各紙の系統は「保守」と「リベラル」に分かれる。取材は公平に行い、記事を書くときは自分の、あるいは社の主張に沿って書いている。そのようなところも読み解く力を持ってほしい。

 地方自治は民主主義の基盤。地方がもっともっと強くなっていくほうが良い。地域がこれからどう変わっていくのか-。地方紙を読み関心を持ってほしい。また、視野を広げバランスを取るために複数紙の併読も勧める。

価値が高まるローカル情報 岩手日報社・川村局長講演 

 「ハイパーローカル情報の価値がますます高まる」と今後の見通しを示した岩手日報社の川村公司編集局長の講演要旨は次の通り。

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 メディアの世界でネットが台頭し人口が減り続ける中、新聞購読者は減少傾向にある。その中で、若者に限らず読解力、書く力の衰えが指摘されている。

 江戸時代、徳川幕府は活字文化の普及に力を入れ、町人も難解な文字を読み書きできたという。人間の機能は使わないと劣化する。新聞は最も身近な読み物で読み書きの力の維持に利用しない手はない。

 新聞は、ネットの掲示板のフェイクニュースとは違う。責任ある人が提供する情報をプロの記者が価値判断し取材して記事にする。読者に情報が届くまで手間がかかっている。情報発信者や記者と読者がつながる「広場」と言っていい。

 読者減少の中、地方紙が踏みとどまっている理由はネットで読めない地域ニュースが多いこと。身近な情報、地域の人の名前、出来事を満載し、小さな地域から岩手、東北、日本、世界の順で物事を見るという立ち位置だ。何事も判断するときは、グローバルな視点とともにローカルな視点が必要になる。

 ネット大手プロバイダーから「岩手のニュースを売ってほしい」との要望が強い。世界、全国のニュースがあふれる中、地方紙のハイパーローカル情報の価値が高まる時代になる。


読む習慣身につける・玉山 怜花さん

 「新聞は堅苦しくて読みづらい」という印象があったが、講座を受け「分かりやすく読みやすく書かれている」と認識が変わった。今まで主な情報源は携帯電話のネットニュースだったが、会社にも新聞が届くので興味の持てる記事を見つけ、読む習慣を身につけていこうと考えている。語彙(ごい)力向上にもつなげたい。

営業に役立つツール・大泉 純輝さん

 新聞を読む習慣があまりなかったので、貴重な機会になった。地元紙は、企業の新工場建設や新事業着手など、地域経済の動向が細かく掲載されている。法人営業を担当しており、お客さまとの関係を構築する上でとても役立つツールと感じるとともに、積極的に情報を取りにいく大切さを再認識した。

意識し情報取り込む・阿部 紗也子さん

 新聞を声に出して読んでみると、簡潔な文章で書かれていることが分かる。また、(読むことで)受け身でなく、意識して情報を取り込むので記憶が定着しやすい。これからはもっと記事を通じて自分の住む地域について理解を深め、日頃のコミュニケーションに役立てたい。仕事での可能性が広がると思う。

簡潔な書き方学べた・増山 貴さん

 簡潔な文章の書き方を学ぶことができた。送電状況の監視などが担当で、設備にトラブルがあったときは現地への対応依頼や報告をまとめるために文章力が求められる。東北電力は「より、そう、ちから。」をスローガンに地域密着を打ち出しており、岩手を詳しく載せている地元紙をもっと活用したい。

顧客との会話に活用・田中 康介さん

 配電部門で電柱用地の管理などに従事しているため、報告文書を書くことも業務としている。文章を簡潔に分かりやすくまとめる上で、今回の講座は参考になった。お客さまと接する機会が多いので、地域密着を目指し、ハイパーローカルの視点を大切に、新聞の情報を会話の糸口にしていこうと思う。

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