人生100年時代のこれから、年金だけでは老後の資金が足りない。95歳まで生きるとすれば、夫婦で2千万円の蓄えが必要になる。

 そんな報告を金融庁がまとめた。現役時代から長生きに備え、早めの蓄えを呼び掛ける。若いうちに投資や積み立てを行うなど、「自助」努力を国民に促す内容だ。

 公的年金は決して「100年安心」ではない。そう政府自ら認めたとも取れる。お金を財テクでためるよう役所が指図するような報告には、違和感が拭えない。

 確かに現実を見れば、年金に頼るのは厳しくなっている。今の高齢者家計も年金だけでは赤字で、預貯金を崩して補うことが多い。長生きすれば貯金は減っていく。

 民間の調査では、30年後に85歳世帯の半数は貯金が底をつくとみられる。長生きした末、貧困に陥る人が急増する可能性が出てきた。

 年金をもらう高齢者は増える一方、保険料を払う現役世代は少なくなる。社会保障の支え手が細る事態は避けられず、給付の水準を維持していくのは難しい。

 年金を巡る実態を国民は肌で感じ取り、制度に不信を抱いている。だから国にいまさら言われなくても無駄遣いを控え、ためられる分はためているのではないか。

 将来不安で消費が振るわないのは、そうした背景があるとみられる。損失リスクもある投資に国が資金を振り向けさせようとしても、国民は簡単に踊らされまい。

 さらに報告は、所得が低い人への目配りに欠ける。非正規雇用で収入が不安定だと、お金をためる余裕がない。老後の暮らしに大きな格差が生じる恐れがある。

 政府は、就職氷河期世代の正規雇用を増やす支援に重い腰を上げた。長寿社会を見据えるならば、ひとり親世帯らを含む総合的な貧困対策にも乗り出すべきだろう。

 報告に意義を求めるとすれば、イメージしにくい老後のお金の問題を明らかにしたことだ。もらえる退職金や年金の額について、特に若い世代は関心が薄い。

 将来、親や自分が認知症になった場合、貯金を簡単には引き出せなくなる。こうしたお金に関する大事な情報も、広く知られていない。

 老後資金の計画がある程度はっきりすれば、いつまで働くかも自分で決められる。企業が退職金の見通しを早めに本人へ伝えるなど、お金の話をためらわずにできる環境づくりが必要だろう。

 お金について判断力を深める「金融リテラシー」は、より重要になる。人生の終盤までを見据えたお金の使い方、働き方について学校や職場での取り組みを強化したい。