東日本大震災津波で被災した文化財の再生に取り組んでいる県立博物館。その立役者である学芸員が、遺跡から出土し保存処理を委託された金属製の文化財の一部を、サンプルとして無断で切り取っていたことが判明した。

 出土品が「W」の形状に切り取られていたことに、同館に委託した自治体側のショックは大きい。「保存処理方法を検討するため必要だった」と学芸員。だが、サンプルを切り取る際は所有者の了解を得るのが基本だ。「倫理観が欠如していると言わざるを得ない」などと、県内の文化財関係者からは厳しい指摘が相次ぐ。

 2014年に発覚。だが、同館側は「慣例的にサンプリングをすることは必要との意識があった」などと十分な調査をせず、公表もしていなかった。「隠ぺい体質」と言われても仕方のない対応が、不信感に拍車を掛けている。

 同館によると、2001~14年度に約560点の保存処理を受託し、サンプリングしたのは約200点。無断サンプリングは現時点で約60点とされるが、今後さらに拡大する可能性がある。

 切り取り手続きをめぐっても、学芸員は「無断という認識はなかった」「別の職員が自治体の了承を得ていると思っていた」と釈明。だが、当時の部下だった職員は「指示を受けたことは一切ない」と反論。真っ向から食い違う。

 何点が無断で切り取られたのか。サンプリングが必要だったとしても、これだけ大きく切り取る必要があったのか。必要ないのであれば、何のために切り取ったのか。学芸員と部下の間で、どんなやりとりが交わされたのか。県教委には徹底した事実関係の解明が求められる。

 無断切り取り問題は、全国の文化財関係者にも波紋を広げている。本県では津波で壊滅した陸前高田市立博物館などの資料50万点超が、全国各地の博物館や研究機関などの支援を得て救出された。その資料の修復に際しても、継続的に支援を受けている。

 震災から8年3カ月。今なお膨大な文化財が、再生を待っている。国が重点支援する「復興・創生期間」は20年度末で終わるが、その後の支援策は定かではなく、先行きが不安視されている。

 そんな中で発覚した無断切り取り問題。今後の修復作業への影響が懸念される。

 「郷土の宝」との再会を心待ちにする住民たち。そして、被災地の文化的な復興を願って応援し続けている全国の関係者を、これ以上裏切ってはならない。

 博物館の再生を抜きに、文化財の再生は進むまい。無断切り取りの全容解明こそ、信頼回復の第一歩だ。