大地がきらめく候。田んぼに水が入り、南から次第に早苗の緑に染め上げられていく。見慣れた初夏の風景も、広大な面積を田んぼにした先人の営みを思えば、実る前からこうべが垂れる

▼日本の水田を潤す水路の総延長は40万キロというから、赤道を10周する距離に相当する。列島に脈打つ血管のような様相は、日本人の食を支え、その歴史や文化、民族的気質に影響してきた米の存在感を象徴する

▼古代の米が赤や黒の有色だったのは有名だ。今われわれが食べる米が白いのは、突然変異で生まれた色素のないアルビノを、祖先が選んで育てたからという(稲垣栄洋著「イネという名の不思議な植物」より)

▼イネは、成長しても種子が落ちない「非脱粒性」。子孫を残すことができない性質は種として致命的な欠陥だが、収穫する人間には好都合。これも祖先が突然変異を見逃さず、その株を増やしたおかげとされる

▼普及当初は技術不足で適地が限られた水田は、江戸期に入ると政情も安定して一気に拡大。洪水が常態化していた河川下流の大湿原は一面の水田となり、治水のすべを得て現代につながる都市が形成されていく

▼国策の変転に高齢化、後継者難など、水田風景は衰退の危機にある。「大嘗祭(だいじょうさい)」には憲法論議もつきまとうが、改めて日本の米文化に思いをはせる好機とは言えよう。