事故や病気で、かけがえのない存在を突然失う悲しみ。別れの時間がなく「あいまいな喪失」に苦しむ人や、助けられなかった自分を責めてしまう人も。別れのつらさは、家族のように愛情を注いできたペットも同じだ。しかし、大規模災害などで大勢の被害者が出た場合、その悲しみが理解されづらかったり、周囲に遠慮して思いを打ち明けられない人もいる。

 「忘れることは絶対にない」。岩手県大槌町の自営業の女性(60)は、2011年の東日本大震災時に海水に漬かったことが原因で感染症を起こし、12年に死んだ愛犬エピキュアへの思いを打ち明けた。

 津波が襲ったあの日、自宅の中まで海水が迫り、女性は愛犬を抱いて近くの山に避難した。夜、避難所に向かおうとして足が止まった。「犬が苦手な方もいるかも」。周囲にはペットを連れて避難所に向かった人はなく、やむを得ず車中泊している人の姿も。結局、女性は避難所に向かうのをやめ、愛犬2匹を胸に抱いて海水に漬かりながら、必死に親戚の所へ向かった。「3月なのに特に寒い日だった。何で水に漬からないようにできなかったのか。申し訳ないことをした」と今も言葉が詰まる。

 10年間、一緒に過ごした愛犬の死。震災で命を落とした動物を描く「震災で消えた小さな命展」の存在を知り、女性も依頼した。完成した作品を見て涙があふれた。「いとしいエピちゃんが戻ってきた」

 この時、「震災で消えた小さな命展」を開いていたのは、千葉県東金市の絵本作家うさ(本名・田中麻紀)さん(51)。12年から国内外を巡回する同展を開催。これまでに100人以上の絵本作家やイラストレーターが参加し、飼い主にペットの絵を届けてきた。

 14年には岩手県宮古市の女性(42)が震災で母親と飼い犬を失った実話に基づいた絵本「ぼくは海になった 東日本大震災で消えた小さな命の物語」を作成した。女性は自宅から高台に逃げる途中、愛犬を抱いた母を波にさらわれてしまった。絵本では愛犬の目線から、1人と1匹の家族を捜し続けた震災後の女性を描く。

 愛犬が現在も行方不明なことが心に残り続けていたという女性は絵本を読み、愛犬の存在を近くに感じた。「自分と同じくペットを失った人たちも、同じように感じてくれるかもしれない」と語る。

 うささんは震災後「自分の目で状況を確かめたい」と被災地入り。ペットを失って悲しんでいる人たちの中でも特に、その悲しみを周囲に遠慮して打ち明けられずに「仮設住宅に移ってから初めて泣いた」という話を多く聞いたという。

 だからこそ「飼い主の悲しみを少しでも和らげたい」と巡回展に力を注いできた。4巡目の準備を進めていた中で発生した16年の熊本地震。現地入りしたうささんが目にしたのは、東日本大震災時と変わらず避難所でペットと人間が一緒に過ごすことが難しい現状。車中泊を選んだ飼い主も多くいたという。

 環境省が作成した大規模災害時のペット救護策ガイドラインの中では「近年、ペットは家族の一員であるという意識が一般的になりつつある」と指摘。安全な場所に一緒に逃げた(同行避難)後、ペットと人が同じスペースで過ごすことができる「同伴避難」の実現に向けてマニュアル作りなどに取り組む自治体も増えているが、混乱時の現場でどれほど実践できるかまだ不透明な部分もある。

 うささんは現在、巡回展の名称を「災害で消えた小さな命展」に変え、同伴避難の環境整備やペットロスへの理解を訴える一方「事前の備えやしつけなど、飼い主自身も準備するべきことを学び、意識を高めることが大前提。そのうえで『家族の一員なんだ』という思いをどんどん声にしてほしい」と呼び掛ける。

 一般社団法人日本グリーフ専門士協会所属のペットロス専門士で獣医師でもある先崎直子さんは「人間のご家族を亡くした場合は周囲の人も悲しみを理解できるが、ペットロスの場合、同じように悲しんでいることが理解されづらい」と指摘。「避難所で親しいと思っていた人に勇気を出して打ち明けても『ペットくらいで』と心ない言葉をかけられ、二重につらい思いをした人もいる。大事に思う存在の対象は人それぞれ。失った悲しみは同じだということへの理解が広がってほしい」と願う。

 この記事は岩手日報社とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。東日本大震災から8年、ようやく語られ始めたペットを巡るエピソードから、改めていま必要な備えを考えます。