「家族の一員」として愛情が注がれるペット。大きな災害が起きるたび、パニックの中で「一緒に逃げる」難しさや、避難所での過ごし方が課題となっている。環境省が示す災害時のペット救護対策ガイドラインには「ペットの健康と安全を守る責任は飼い主に」と明記されているが、混乱する中で命を守るため、飼い主にはどのような判断が求められるだろうか。

 「家に津波が来る。助けに戻らなきゃ」。2011年3月11日午後2時46分、勤務中だった岩手県陸前高田市米崎町の男性(64)は、居ても立ってもいられず、海岸線に程近い自宅で待つボーダーコリー2匹の元へ向かった。東日本大震災から8年たった今、あの時の行動が正しかったのか問われても「答えは分からない」のが正直な胸の内だ。

 会社からは通常時なら車で5分。「すぐに行動すれば間に合う」と飛び出してはみたが、家に向かう道路は今までに見たことのない渋滞。「まだかまだか」と焦る一方、海に向かって坂を下っていく恐怖も感じていた。

 やっとの思いで家に着いたがモティー(当時2歳、雌)はすっかりおびえてしまい、どんなに呼んでも犬舎から出てこない。男性は犬舎の中に腹ばいになって無理やり引っ張り出し、ビアン(当時7歳、雄)とともに車に乗せた。車には2匹分のケージが常備してある。  またしても渋滞の列へ。このままでは危険と判断し、小道にそれて高台に駆け上がった。間もなく、防潮堤を越えた津波が国道に並ぶ車をのみ込み、高田松原の松林を一瞬でへし折る様子が眼下に広がった。危機一髪だった。

 「冷静に振り返ると危ないことをした。でも、家族同然の2匹をどうしてもおいていけなかった」。愛犬との生活は男性にとって、日々の励みそのもの。ただ、隣人は飼い猫を迎えに戻って亡くなっている。「運が良かった」だけでは済まされないとも思っている。

 いざという時、飼い主とペットの安全を同時に守るには、どう行動すれば良いのか。環境省は、東日本大震災で多くのペットが自宅に取り残されたり、飼い主とはぐれて放浪状態になったりしたことから、13年に大規模災害時のペット救護対策ガイドラインを作成。一緒に逃げる「同行避難」の重要性や備えの大切さを訴えている。さらに16年の熊本地震で浮き彫りになった、避難所などで人間とペットが一緒に過ごす「同伴避難」の課題を踏まえて18年に内容を改定した。

 同じ沿岸部で被災した宮古市のNPO法人「命ほにほに」(梶山永江代表理事)では震災を受けて月に一度、一般参加者を対象に同行・同伴訓練を行っている。

 避難グッズを入れたキャリーバッグを持って犬と一緒に悪路を逃げる訓練では「犬を抱える筋力がないことに気が付いた。『このままでは一緒に逃げられない』とはっとした」という40代の女性の声も。ふだんはおとなしくハウスやケージに入るのに、違う環境に驚いてほえてしまうなど、訓練を体験して初めて飼い主が気付く課題は多いという。

 梶山代表は「最近は室内犬も増え、屋外で過ごした経験がない犬も少なくない。普段と違う状況にパニックになり、落ち着かないのは動物も同じ。『いざ』に備えて飼い主もペットもいろいろな状況を体験しておくことは大切」と呼び掛ける。

 ガイドラインでは、緊急時に外出などでペットと離れた場所にいる場合は「自分自身の状況、周囲の状況、自宅までの距離、避難指示等を考えて、飼い主自身によりペットを避難させることが可能かの判断が必要」としている。そのうえで「個人の対応に限界がある」場合に備えて自治体等による支援体制の整備も促す。

 一緒に逃げるための備えとして▽避難グッズの準備(ペットフードや水、いなくなった時に探すための写真、リード、おもちゃ、タオルなど)▽キャリーバッグに入る訓練▽基本的なしつけ-などが挙げられる。これらは、避難所などで人間と一緒に過ごす同伴避難の環境づくりにとっても重要になる。

 一般社団法人ペット災害対策推進協会の沼田一三事務局長は「同行避難の大前提は飼い主の安全確保。一口に災害と言っても、地震によって一瞬で家屋に押しつぶされそうになる例もあれば、津波や大雨災害のように時差があることで助けに戻ったり一緒に逃げるか迷うケースもある。とっさの判断を助けるのが日頃の備え。持ち物や行動は何を優先するか、少しでも考えたことがあるのと無いのとでは違いが出るだろう」と警鐘を鳴らす。

 この記事は岩手日報社とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。東日本大震災から8年、ようやく語られ始めたペットを巡るエピソードから、改めていま必要な備えを考えます。