「おくりものはナンニモナイ」(パトリック・マクドネル作、谷川俊太郎訳)。山田町の佐藤祐加子さんの仮設住宅を訪れた際、居間の壁に目を奪われた。なぜ、この絵本を飾っているのか。

 「なんにもなくなっちゃった」。佐藤さんは看護師で、読み聞かせボランティアとしても長らく活動。だが、自宅も蔵書も津波に流された。

 お気に入りだったこの絵本は知人が贈ってくれた。壁には、かわいいクマの切り絵や人形も。「贈ってくれた人たちと、これからも一緒に歩みたい」との思いを込めて。

 被災地は災害公営住宅などの整備が最終盤。ハードからソフトへ、「物」から「心」へ、大きな転換期にある。

 街の復興と心の復興は、必ずしも一致しない。全てを流された喪失感は深く、あまりに長い仮設生活が心身の疲弊を増す。ついのすみかに身を落ち着け、ようやく悲しみに向き合い始めた遺族もいる。

 喪失感を抱えながら、懸命に生きる住民たち。再起を後押しするため、支援を切らしてはならない。一人一人の心の復興を長期的に支える取り組みに一層力を入れたい。

 佐藤さんは町の臨時看護師として被災者らの語りに耳を傾ける傍ら、小学校などで読み聞かせも続けてきた。7年7カ月の仮設生活を経て昨年末、高台に自宅を再建。57歳で新たな一歩を踏み出した。

 「私自身、なかなか心の傷が癒えない。でも、気づいたんです。傷が治らなくても、それを抱えたまま人は立ち直り、希望を取り戻して生活できるということを」

 立ち直る基盤が、人とのつながりだ。身近に気持ちを分かち合える人、健康や生活面の悩みを安心して相談できる専門職がいればこそ、希望を取り戻すことができる。

 国の支援が先細る中、現状は厳しい。厚生労働省の「医師偏在指標」によると、本県の充足度は全国最下位で、特に沿岸部は深刻。看護、介護などの専門職も足りない。

 そんな中、沿岸各地の官民は見守りやサロン活動など、コミュニティーの再構築に試行錯誤を続ける。今後も住民主体の地域づくりを地道に進め、孤立を防ぎたい。

 仮設の壁に飾っていた絵本は今、新居の本棚に大切にしまってある。絵本の中に、これからのヒントがある。

 主人公は、友達を喜ばせようと悩み、最高の贈り物を考えつく。友達が大きな箱を空けると、中は空っぽだった。

 「そのとおり! ナンニモナイ…きみとぼくのほかにはね」。2人は肩寄せ合い、ただ、じっとして「ナンニモナイ」を楽しんだ…。

 住民が支え合い「共にある古里」をつくりたい。次代への最高の贈り物として。