社名は「ヘラルボニー」、ミッションは「異彩を放て。」-。花巻市の松田文登(ふみと)さん、双子の弟・崇弥(たかや)さん=27=は、福祉を軸に事業企画を行う株式会社ヘラルボニー(本社同市、松田崇弥代表)を立ち上げ、社会と障害者をつなぐ活動に取り組んでいる。知的障害があるアーティストの作品を日用品にするブランド「MUKU(ムク)」を仕掛け、クオリティやストーリー性の高さから全国での講演やイベント出演も相次ぐ2人。アート、ファッション、遊び、社会貢献・・・たくさんのキーワードを掛け合わせて若い世代や行政も巻き込み、福祉という「枠」を軽やかに飛び越えている。

 「MUKU」は、同市星が丘の「るんびにい美術館」で活動する知的障害があるアーティストのイラストを傘やネクタイ、ブックカバーなどにして、都内の店舗やネットを通じて販売している。

 傘は全国でも貴重な国産専門店が手掛け、ネクタイは老舗ブランドがシルク素材で製作するなど、いずれも1本2万円以上するこだわりの商品ばかり。背景には「障害者支援という視点ではなく『優れたアート』による経済活動にするため、高くても手に取りたくなる商品を」という2人の思いがある。

 2人の4歳上の兄は先天性自閉症。幼い頃から福祉との接点はあったが大学卒業後、文登さんは県内の建築会社、崇弥さんは都内の広告代理店に就職した。

 事業開始のきっかけは、就職後に何気なく訪れた同美術館で目にした、純真無垢(むく)で強烈な個性たち。「素晴らしいアートが、このまま世に出ないのはもったいない。発信の仕方次第で、これまで福祉に関心が無かった人たちとの接点になるのでは」と考えた2人は、会社勤めの傍ら家族の協力を得ながら「MUKU」を16年からスタートさせた。

 洗練されたブランディングや質の良さから、狙い通り「障害者アート」と知らずに買い求める人も多く、口コミで知名度も上昇 。赤字覚悟で始まった事業だったがアーティストに十分な対価を還元しながらも黒字を継続し、 現在は同市のふるさと納税返礼品としても使われている。

 「社会と福祉をつなぐ活動に本格的に打ち込もう」と一念発起し18年11月にヘラルボニーを設立。2人とも退職し、崇弥さんは都内に残って東京事務所を拠点にしながら広報や企画編集など兼業を含む6人の仲間とともに運営している。ヘラルボニーは、自閉症の長男が子どもの頃ノートに落書きしていた言葉。「一見意味がないようでも本人には大切な言葉かもしれない」というコンセプトが会社の目指す方向性と合致し社名にした。

ヘラルボニーが福島県の「はじまりの美術館」と共同で製作したTシャツとトートバッグ(同社提供)

 1月からは新たに、福島県猪苗代町の「はじまりの美術館」とコラボし、同館で活動する知的障害があるアーティストによるネクタイや T シャツを製作。ネットを通じてファンや資金を集めるクラウドファンディングを活用している。 文登さんは「障害者アートが正当な価格で流通する仕組みが生まれるよう、意識的に都内の企業やビジネスマン向けにPRしている」と狙いを語る。

 2月末からは渋谷区と共同で、工事現場などで使われる仮囲いを障害者アートで飾る「仮囲いプロジェクト」がスタート。大勢の目に触れる仮囲いのパネルを「アートを楽しむ場」とする新たな社会貢献スタイルとして企業や行政に協賛を募り、全国各地での展開を目指す。都内にある企業のオフィスの壁紙にも、ヘラルボニーが契約するアーティストの作品が採用されるなど、広がりをみせている。

 「障害者や福祉の現状を理解してもらおうと頑張るのではなく、接点が生まれるまでの『過程』を楽しく提供したい」と文登さん。崇弥さんは「去年から蒔いた種がたくさんあるので、着実に実績を積んでいきたい」と思い描く。

 「はじまりの美術館」とのコラボ商品の詳細はプロジェクト専用ページ(「ON」の時間を彩るネクタイ&ソックス「OFF」の時間を彩るTシャツ&ソックス)、「全日本仮囲いプロジェクト」詳細はヘラルボニーホームページから。