「世界最大級」と政府がうたう自由貿易圏が生まれた。日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が1日、発効した。

 日本など11カ国の環太平洋連携協定(TPP)も、昨年暮れに発効している。二つの自由貿易圏を合わせた人口は10億人を超え、経済規模は世界の35%を占める。

 かつてない自由化時代の到来は、企業がビジネスをしやすくなるだけでなく、暮らしにも影響してくる。特に日々の食卓は、じわじわと変わっていくに違いない。

 早くもスーパーでは欧州産ワインの値下げセールが始まった。発効と同時にワインの関税が撤廃されたためだ。輸入品を安く買えることは、消費者に恩恵ではある。

 だが、それは国内のワイン産地が厳しい価格競争にさらされることを意味する。醸造用ブドウの栽培に適し、ワイン生産が伸びている岩手にも試練となろう。

 二つの協定で、最も打撃が大きいのは酪農・畜産とみられる。日欧EPAでは、欧州産チーズの関税が段階的に撤廃される。豚肉関税も撤廃・引き下げとなる。

 関税は少しずつ引き下げられるため、すぐ影響が目に見えるわけではない。だが長期的には、国産との価格競争が激しくなっていく。

 今でも日本人の食卓は輸入食品・加工品に囲まれている。4割に満たない食料自給率はさらに下がり、外国産食材が増えていくだろう。食卓が変わりゆく後に、日本農業はどうなるのか。

 酪農だけを見ても、北海道を除く全国の生産基盤は相当弱まっている。コスト高や後継者不在により、離農が続くためだ。岩手でも次々と酪農家がやめている。

 自由化の波は、それに拍車をかけかねない。政府は大規模化によって国産の競争力を強めようとしているが、十分とは言えない。

 岩手をはじめ地域の酪農・畜産の多くは家族経営が支える。その現実から懸け離れては、基盤は細る一方だ。地域で安心して農業を続けられる政策が欠かせない。

 昨年の北海道地震では、牛乳が首都圏のスーパーから消えた。今や北海道の供給が国内の需要を賄うが、「食」を一部の地域や大規模生産者に頼る構図は危うい。

 もっとも輸入増におびえるだけでなく、「攻め」の輸出を政府は奨励する。日欧EPAでは「前沢牛」のような地理的表示(GI)は欧州でも保護されるため、輸出は確かに追い風になる。

 しかし一般の農業者、中小事業者には依然、輸出はハードルが高い。成功例を広げてノウハウを蓄積し、支援を充実することが不可欠だろう。