2015年3月2日。釜石市でのラグビーワールドカップ(W杯)開催が決まった夜、スタジアム建設予定地は街灯もなく、ただただ真っ暗な工事現場だった。本当にここで国際試合を開けるのか、開いていいのか-。当時の鵜住居(うのすまい)を見てそんなことを思った。

 今年9月。スタジアムで試合を見た。さまざまな思いを胸にグラウンドを見つめる観客の中には、笑顔とともに感極まって目を潤ませる人もいた。

 当初は肌感覚として、W杯に前向きでない人が相当数いた。私も復興事業や生活再建が先ではないかと思ったし、今でも思うことはある。それでも「反対だったけど、やってよかった」との声も聞く。経済効果などの数字以上に「前を向く力になった」ということなのか。私自身は無謀とも思える計画が動きだし、人の気持ちが変わる現場に立ち会って、人の意志の力強さを実感した日々だった。

 ところで釜石の酒場でW杯の話を客に向けると話題は「スタジアム、これからどうするか」。建設費約50億円。ビジョンはこれから。国や県の予算も多く使われ釜石市民だけの問題ではない。故郷への誇りを取り戻す機会となったW杯が飛躍のきっかけとなるか、財政負担となるか。大会は終わったがまだまだ皆で知恵を絞らないといけないことがあると肝に銘じたい。

(山口 智)