教育に新聞を活用するNIEの多様性と交流、国際化をキーワードに開かれた日本NIE学会(会長・阪根健二鳴門教育大大学院教授)第16回鳴門大会は、新聞を教育現場で生かす知見や実践を紹介・提言し「教室と社会がつながる学び」の在り方を探った。

 徳島県鳴門市の鳴門教育大で10月19、20の両日、延べ約300人が参加。1日目は記念講演や記念鼎談(ていだん)、研究分科会が開かれた。

 鳴門教育大主催の記念講演は大学入試センター試験・研究統括補佐官兼審議役の白井俊さんが「変わりつつある日本の教育-国際的な視点を踏まえて」と題し、コンピテンシー(能力)重視の国際的トレンドについて解説。知識、スキル、態度・価値観を「新たな価値を創造する力」「対立やジレンマを克服する力」「責任ある行動をとる力」「変革を起こす力」に結びつける教育が求められることを強調した。

 学会主催の鼎談は、教育現場、新聞社、大学の立場で3人が登壇。「教室と社会がつながる学びを」をテーマに、新聞の多面性、多様性や時間軸で捉えられる特徴が深い学びにつながることを確認した。

 2日目は自由研究発表が行われ、20個人・グループが実践事例や調査研究について報告。岩手日報社は昨年度行った県内全校対象アンケート調査を分析し「岩手県におけるNIEの現状と効果に関する考察」と題して発表した。


3・11本紙広告 最後だとわかっていたなら

道徳で活用、生徒涙 佐賀・肥前中光武教頭発表

「社会に開かれた道徳科授業の開発」と題し、本紙広告「最後だとわかっていたなら」を主教材にした授業を発表する光武正夫・肥前中教頭

 「たくさんの生徒が涙を流す道徳の授業。教員生活三十余年、初めてだった」

 大会2日目の自由研究発表。佐賀県唐津市・肥前中の光武正夫教頭は、前任校・厳木(きゅうらぎ)中3学年で昨年12月に行った「感謝」を主題とする授業を振り返った。

 教材は、岩手日報が「3・11をすべての人が『大切な人を想(おも)う日』に」と呼び掛ける3月11日の広告「最後だとわかっていたなら」。米国の詩人ノーマ・コーネット・マレックが10歳で亡くなった息子にささげ9・11同時多発テロ後に注目を集めた詩とともに、署名への協力を求めている。動画投稿サイト(ユーチューブ)で流した関連動画も利用した。

 生徒は予習課題で、東日本大震災の記事2本を読んだ。震災で親を亡くした子が書いた届かない手紙。当時同世代、現在同世代の2人がそれぞれ感謝の気持ちをつづっている。今、子供は亡くなった親に、また親は子供に何を伝えたいかを考え、当事者になったつもりで手紙を書いた。保護者には広告と映像から「最後だと-」をイメージした子供への手紙を依頼した。

 授業では広告と動画を見た後、生徒一人一人が保護者からの手紙を開いた。そこには、何げない日常では語られない愛情があふれている。「もしも突然の別れが訪れても『私の自慢の子供だった』とみんなに伝える」「抱きしめてあげたいのに嫌がられるんじゃないかと怖くてできません」「お母さんの子供に生まれてきてくれてありがとう」

 多くの生徒が目頭を熱くし、真剣に返事を書いた。

 生徒の感想は「胸に刺さる授業だった」「涙が出た」「親のありがたさを感じた」など。9割が「とても印象に残る授業」と答えた。保護者の感想も「親子で驚きと感動に浸った」「互いの思いを共有できた」「深く心に残る授業だった」と評価。家庭に対話が広がったことを裏付けた。

 授業後、生徒は地元紙に投書。「最後だとわかっていたら」「感謝をいつ伝えるか」などのタイトルで、感謝の気持ちを言葉で伝える大切さを訴えた。

魅力ある教材へ連携

 魅力ある教材開発に取り組む光武正夫教頭。本紙広告「最後だとわかっていたなら」との出合いは、昨年のNIE全国大会盛岡大会だった。女子高生が見入っている展示。「何かに使える」と感じた。

 道徳に使うきっかけは、生徒の交通事故。以前に教え子が突然死したことが思い出された。朝学習で絵本「かぜのでんわ」の朗読を聞き「最後だと-」に結びついた。「人には突然の別れがある。今やるしかない」

 岩手日報社に新聞と動画の提供、保護者に子供へのメッセージを依頼。凝縮されたリアルな親の気持ちが届いた。

 保護者、新聞社と連携した授業で生徒は「明日が来ることが当然ではない」ことに気付き、「親への感謝」「目標に向け一日一日大切に生きる」ことを学んだ。

 光武教頭は「アイデアやコンテンツ、新聞社の企画力は優れている。広告も動画など情報量が多く教材に利活用できる」とし「新聞社、保護者、いろいろな人との協働で、社会に開かれ、生徒の心を揺さぶる良い授業がつくれる」と強調する。


大学、教育現場、新聞社、教室と社会つなぐ鼎談

 「教室と社会がつながる学び」の在り方を探る記念鼎談(ていだん)には、元小学校長の野口幸司・徳島新聞NIEコーディネーター、徳島新聞の岡本光雄編集局長、日本NIE学会長の阪根健二・鳴門教育大大学院教授が登壇。実践や経験を基に、学校現場、新聞社、大学・研究者の立場から主張・提言を行った。

㊧「記事に引き込まれることで自分のことと感じる」と発言する阪根健二さん、㊥「学校と社会を結びつけることがNIEの役割」と力を込める野口幸司さん、㊨「どれだけ当事者に寄り添う意識を持つかが記者には必要」と説く岡本光雄さん

通じ合う言葉が大切/社会的な価値を認識/記事に2.5人称の視点

 野口さんは、認知症高齢者が戦争体験を語る授業や児童のアフリカ支援が新聞に掲載された事例を紹介。「子供たちは、活動の社会的な価値を認識することができた」とし「学校と社会をつなげることがNIEの大きな役割」と強調した。

 岡本さんは、東日本に大きな被害をもたらした台風19号や人口減少社会を挙げ「被害者の傷は癒えているか-追う報道が大切。命と暮らしをどう守るか、教室、家庭で考えるきっかけを提供し続ける責任がある」と決意を示した。

 阪根さんは「一番大切なのは通じ合える何か」との新聞記者だった父の言葉を披露。父の立ち上げた新聞社の紙面を示し「昭和の歴史を伝えている。『残る教材』として新聞のすごさを感じる。通じ合うために言葉が大切だ」と語った。

 また、岡本さんは、被害者らの立場に立つ二人称、第三者的立場の三人称の中間とする作家・柳田邦男さんの二・五人称の視点を紹介。「権力を監視する半面、どれだけ当事者意識を持つかが記者に必要な視点だ。読者に寄り添う新聞を作りたい」と発言。阪根さんは「二・五人称の記事に引き込まれ自分のことと感じる」とし、野口さんが「多面性、多様性、時間性を兼ね備えた新聞が、深い学びのエネルギーになる」と、教室が社会とつながる上で新聞の必要性を説いた。


阪根学会長に聞く「記事の向こうに人がいる」

 NIEの可能性や意義について、日本NIE学会長の阪根健二・鳴門教育大大学院教授に聞いた。

(聞き手 NIE・読者部 礒崎真澄)

「記事の向こうには人がいる。その意識を持ち新聞を読むことがNIEの醍醐味」と語る阪根健二・日本NIE学会長

 -「『新たな時代』に対応したNIE~教室と社会がつながる学びを」が大会テーマだった。

 「混沌とした時代、人と人、人と社会を結びつける一つの手段がNIEだ。新聞の持つ力は情報。正確に簡便に伝えようとする力を人と人、人と社会をつなぐ原動力にしようという狙いがあった」

 -新聞は、人と人、人と社会、思考を結ぶツールになり得るか。

 「新聞の限界は言葉だ。動画のように簡単にイメージを生み出すことはできない。しかし、動画だけでは考える力が育たない。新聞を読み、言葉の裏にあるものを考えること。そこから判断ができるようになる。言葉とイメージをつなげる教育が必要だ。新聞に掲載されている事実を教室で取り上げることが生徒の想像力を育む」

 -NIEの面白さは。

 「『記事の向こうには人がいる』。読者から見れば、記事に登場する人、書く人(記者)、記者から見れば、読んで考える人。人がいることを知れば、それぞれの気持ちが分かる。『人がいる』意識を持ち新聞を作り、読むことがNIEの醍醐味(だいごみ)だ」