奥州市の胆沢中(鈴木雅司校長、生徒392人)は本年度から全校で朝学習の時間に月1回、新聞スクラップに取り組んでいる。なぜこの記事を選んだのか、この記事のどこが面白いのか、この面白さをどうやって伝えれば良いのか-。鈴木校長は「読むだけでなく、よく考え、友達に伝えることまで意識することがとてもいい勉強になっている」と活動を見守る。

◇友人との交流

2人1組で新聞スクラップを交換して「お隣さんの記事に関する感想」を書き込む胆沢中2年

 朝学習は午前8時20分から同8時30分。このわずか10分間に▽用意していた記事をワークシートに貼る▽選んだ理由や感想を書く▽ワークシートを隣の席の人と交換し、記事と感想を読んで、自分の感想を書き込み話し合う-の三つの作業を終える。

 昨年夏、現3年生が始めたスクラップを全校に広げ半年。回を重ねるにつれ、生徒は素早く記事を読み、自分の考えをまとめ、文章を書く力がついてきた。

 新聞に目を通すと、自然災害、事件事故、経済、スポーツなどさまざまなジャンルの記事に出合う。「紙面から気になる記事を選び、手を動かして切り抜くことで情報を『自分ごと』としてとらえるようになる」とNIE担当の渡辺政江教諭は狙いを語る。

 さらに隣の席の人との対話で記事の視点が広がり、考えがより深まる。生徒の間では「もっと分かりやすく伝えたい」という意欲が芽生えているという。

 2学期最初の活動日となった9月下旬、図書委員長の黒沢ゆあさん(3年)が選んだのは、ラグビーワールドカップ(W杯)の釜石会場で試合前に黙とうすることを報道した記事だった。黒沢さんは「被災地を元気にするために自分もラグビーのルールを学び、釜石のラグビーを盛り上げたい。開催を家族も楽しみにしていた」と笑顔を見せた。

◇各教科へ展開

 同校では2学期中に一部国語科授業で新聞の読み比べ、3学期には1年間の総仕上げとして一番心に残った記事をテーマに「エンカウンター」(本音を出し合い、互いの意見を認め合う体験)を取り入れた授業を計画している。渡辺教諭は「今後はさまざまな教科に展開できるよう提案していきたい」と意気込む。

 鈴木校長は「生徒が新聞を読む習慣をつけ、社会や地域への関心を高めるきっかけにしてほしい」と願う。


感想もらい楽しさ倍増 図書副委員長・高橋光太さん(3年)

 普段から新聞スクラップに取り組む高橋光太さん(3年)がスクラップの魅力を紹介する。

 胆沢中の3年生は昨年8月から新聞スクラップを始めた。心に留めておきたいと思い、最初にスクラップしたのは夏の高校野球決勝戦「金足農業対大阪桐蔭」(2018年8月22日付)の記事。敗れてしまったけれど、金足農業の選手の姿はいつまでも記憶に残しておきたいと思った。そして、記録としてもいつでも読むことができるようにしておきたかった。

 大リーガーの大谷翔平選手に関わる記事は欠かさずスクラップしている。小学2年生から野球を続けている僕にとって奥州市出身の大谷選手の活躍は見逃せない大事なことだ。ただ、僕は二刀流にこだわらず、ピッチャーに専念してほしいと思っている。けがが一刻も早く治るよう祈っている。

 スクラップしている記事が増え、読み直す時間はとても楽しい。同じグループの人にも、僕がスクラップした記事の感想を書いてもらっているので、それを読むと楽しさが倍増する。日韓問題をスクラップしたときは「こういうことに注目してすごい」「互いを正確に理解する必要性を訴えていてすごいと思った」と書いてもらい、ちょっとだけ誇らしかった。

 学校で行うスクラップの活動は月に1回だが、僕は普段から気になる記事はスクラップするようにして家族にも見せている。新聞を読むときは、まずは見出しを一通り読み、スクラップしたい記事を見つける。次にじっくり記事を読む。記事の内容を分かりやすく、短くまとめている見出しは素晴らしいものだと思う。

 皆に「見出しからスクラップしたい記事を探すといい」と伝えたい。図書委員会の活動の一つとして、新聞スクラップの楽しさをもっともっと広めていきたい。


胆沢中・渡辺政江教諭 手作業で「自分ごと」に

 「新聞記事を切り抜くという手作業、切り抜こうと思う記事を探すことで、記事が自分に近づく」。斎藤孝氏(明治大教授)のこの話を聞き、新聞スクラップを始めようと思った。さらに「記事を『自分ごと』として捉えると自然に関連記事を探すようになり、必ず誰かに話したくなる」という。そして何よりも新聞記事から知的な会話が生まれ、人間関係が良くなる効果が期待できるという点に心が動いた。

 本校の新聞スクラップは3年生が先行して前年度からスタートしている。本年度からは全校で取り組み、1、2年生は共通のワークシートを使っている。ワークシートには「お隣さんの記事に関する感想」を書く欄を設けた。子どもたちからは「自分が選んだ記事を隣同士で読み合い、話し合うのも楽しい」という反応が返ってきた。

 新聞を読み解く力は中学校卒業に相当する国語力がベースになる。新聞スクラップを通じて、なんとしても読み取る力、取捨選択の力、読み取ったことを活用する力、比較する力などをつけさせたい。

 実のところ、ほとんどの生徒が新聞を読む習慣がなかった。「読むとしてもテレビ欄ぐらい」という生徒も少なくなかった。最初のスクラップの日は、どれがひとまとまりの記事で、どのように読み進めばいいか分からず戸惑う姿も見られた。今ではきちんとスクラップを用意できている。

 生徒に聞いてみると、新聞を購読していない家庭が過半数を占めるのが現状だ。ネットで簡単にニュースが入る時代だからこそ、受け身でなく、新聞を切り抜き「自分ごと」にするアナログな作業を大事にしていきたい。

 生徒には「自分ごと」として考えを深めた記事を家庭でも話題にしてほしい。お互いに「こんなことを考えているんだ」という気付きがあり、話が広がり、きっとすてきな時間になると思う。

(談)