石川啄木の「氷屋の旗」という随筆は、炎暑に風もなくうなだれる旗に自らの苦悶(くもん)を重ねた一編だ。初出は1909(明治42)年というから、夏の氷が庶民にも広く出回っていた頃だろう

▼それから20年を経ずして、米国では氷屋さんの発案でコンビニエンスストアが産声を上げている。テキサス州の製氷会社で氷の小売りを任されていた店長が、客の要望でミルクやパン、卵なども扱い始めたのだ

▼客が欲しいものを欲しい時に提供する-という店長の考えに共鳴した会社側は、他の店にも同様の仕組みを拡大。46年には朝7時から夜11時まで、週7日営業という業態が定着した。セブン-イレブンの誕生だ

▼日本では74年、その1号店が東京都内にオープン。本邦初のコンビニで最初に売れたのはサングラスだったという。その業態が、一人の店長の問題提起を契機に変革を迫られているのは歴史の巡り合わせだろう

▼セブン-イレブン・ジャパンが時間短縮営業を正式に容認する。ファミリーマートやローソンでも取り組みが本格化。「脱24時間」の動きは、「身の丈」に合った働き方を志向する時代を映す面もあるだろうか

▼大学入試に関わり、公平性に議論がある英語民間試験を巡る文科相の「身の丈」発言は受験生に氷より冷たい。格差に鈍感な性状は、撤回で解けるものでもあるまい。