栽培法学び漬物開発

 遠野市の遠野緑峰高(菊池勇校長、生徒147人)は近年、地域の農業資源の付加価値を高め、地場産業の活性化をリードする研究に力を入れている。その一つが、生産技術科野菜果樹研究班による伝統野菜・琴畑カブの再生プロジェクトだ。

 琴畑カブは色鮮やかな紫色とあっさりした味が特長で、かつては漬物として遠野地域の家庭の食卓を彩った。だが、連作障害の影響を受けやすく、生産性も低いことから次第に担い手が減り、三十数年前に事実上生産が途絶えた。

 時は過ぎ2013年、同研究班が「地場食材の価値を高めたい」と復活栽培に乗りだす。元生産者の指導で害虫対策や有機栽培など試行錯誤を重ね、年度を超えて生産ノウハウを積み重ねた。

 先輩からのバトンを受け、次なる課題の「商品開発」に挑んだのが本年度の3年生6人だ。「学校の中で作っているだけではもったいない。多くの人に食べてもらえることが、農家の励みになるはず」。6人は2年時の昨年から研究に着手した。

琴畑カブヤマブドウ漬けを作る生徒=3日、遠野市・遠野緑峰高

 カブをマフィンにしたり、浅漬けにしたりと商品試作を展開したが、満足いくものはできず。行き詰まりを感じていたとき、地元漬物職人の「ヤマブドウを使ってみては」との助言が活路を開いた。

 カブ元来の紫色を引き立て、爽やかな酸味はアクセントになる。塩漬けの後にしょうゆ漬けにし、最後に地元産ヤマブドウをもみ込む。昨年冬に完成した第1弾商品「琴畑カブヤマブドウ漬け」は、全日本漬物協同組合連合会が主催する漬物グランプリ2019決勝大会(4月、東京)個人の部で、日本一に輝いた。

 自信を得た6人は本年度、商品の市場流通と生産の安定化という二つのテーマを並行して進めている。生産面では、ハウス栽培の技術確立。適切な室温の見極めなど、通年多期作の可能性を追求している。

 市場流通面では、地域との連携を意識。コミュニティー食堂や、出張型デイサービスへの漬物提供を始めたほか、道の駅などでの販売も強化し、知名度の向上を図っている。

 生徒の熱意は地域にも波及。本年度から琴畑カブの作付けを増やす農家が現れたほか、レストランからの申し出でカブを生かした新メニュー開発に協働するなど、地場産業に新たな風を吹き込んでいる。

 菊池真捺(まお)さんは「地域の皆さんの協力があって研究を続けられている。琴畑カブが新たな遠野の宝となるよう、生産量の安定と市場流通を目指したい」と意気込みを示す。

 指導する前原達也教諭(44)は「目標が明確になり、生徒の目の色が変わった。地域の支えへの感謝を大切に、自主性を育んでほしい」と見守る。

(岩手日報社)

 

支える人たち
 

やる気と情熱の商品

工藤古寿さん

 「やる気、情熱がなければ生まれなかった商品。本当によくやった」。遠野市綾織町で40年以上漬物製造販売を手掛ける工藤古寿(ひさとし)さん(76)は、若人の活躍に目を細める。生徒が研究に行き詰まっていた時、ヤマブドウ漬けの試行を提案した本人だ。

 助言を求めにきた生徒らに、工藤さんは自信を持って答えた。職人の「勘」。ヤマブドウがカブの紫色を引き立て、かつ酸味が素材本来のうま味を引き出すと考えた。「野菜の味を生かしながら、多様な味を生み出せる。それが漬物の魅力」。心意気は、生徒に確かに伝わった。

 生徒は一から漬物を学び、砂糖や塩分の配合を何度も試行錯誤。販売実習先で試食者から評価を聞き、味のバランスを調えた。

 工藤さんは「食卓に合う漬物の味は時代とともに変化する。自分はあくまで助言だけ」と一歩引いた位置から応援。「消費者の顔を思い浮かべながら、一つ一つの素材に心を込める。逆に漬物職人としての原点を思い出させてくれた」と感心する。

 

研究継続へ環境整備

高橋義明さん

 生徒の実直な姿勢は、地域の農家にとっても大きな刺激だ。遠野伝統野菜研究会(佐々木定則会長)の高橋義明副会長(56)は「柔軟なアイデアと行動力。今やこちらが追い掛ける側かもしれない」と感服する。

 同研究会は、琴畑カブの再生プロジェクトを当初から支援。かつての生産農家がノウハウを伝授し、農機具も貸与。店頭販売の応援にも駆け付けるなど地域を挙げた「応援団」を自認し、大きな期待を寄せてきた。

 ここ1年で急速に脚光を浴びた琴畑カブ。高橋さんは「地域住民に身近な食材として認知してもらうことが、販路拡大への第一歩」とみる。「地元店舗や消費者の応援がないと、一過性で終わってしまう。生徒が代替わりしても継続して研究を続けられる環境を整備できれば」とさらなる後押しを誓う。