もはや耐えられないと、本人も周囲も腹を決めたのだろう。9月の内閣改造で初入閣したばかりの菅原一秀経済産業相が辞任した。

 選挙区内の有権者に秘書を通じて金品を配るなど、公選法違反に当たるとみられる疑惑は深まる一方だ。辞任は首相官邸が背中を押したとされる。事実上の更迭だ。

 臨時国会は日米貿易協定承認案や憲法改正の手続きを定める国民投票法改正案など、安倍晋三首相肝いりの重要課題で与野党攻防が本格化するタイミング。11月には、経産省が担う東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が最終盤の議論を控える。環太平洋連携協定(TPP)などと並ぶ政権の通商政策の柱だ。

 この状況で、菅原氏は「私の問題で国会審議が停滞するのは本意ではない」と辞任理由を説明した。この発言が、そっくり官邸の意を反映しているのは想像に難くない。

 正直と言えば正直だが、そこに官邸への配慮は見えても国民に対する責任感のほどはうかがえない。この一事をもってしても閣僚の資質を疑わざるを得ないが、事はそれにとどまらず、国会議員としての正統性に関わる。

 公選法は、政治家が選挙区内の住民に金銭や物品などを提供することを禁じている。例外として本人が出席する結婚式の祝儀や葬式の香典などは認められるが、秘書らが代理して渡すことはできない。

 菅原氏の指示で有権者に金銭や物品を届けていたとする一連の報道が事実なら、立件の対象となる可能性も否めまい。票をカネで買うに等しい行為は選挙をゆがめ、政治への信頼は地に落ちる。

 野党からは議員辞職が必要との声も上がる。本人は自身の積極的な関わりを否定。事実解明に、国会の自浄能力も問われよう。閣僚辞任で幕引きが許される問題ではない。

 この際、安倍首相の任命責任も厳しく問われなければなるまい。関西電力役員らの金品受領問題が世論の糾弾を浴びる中で、業界を所管する経産相がカネに絡んで立場を失う事態は、政策全般への信頼に関わって深刻だ。

 菅原氏は自民党無派閥。政権を支えるキーマンの一人である菅義偉官房長官に極めて近いとされるが、10年ほど前も菅原氏の事務所が有権者にメロンなどを贈っていたと報じられた経緯がある。結果的に疑惑を放置した形の重要閣僚起用に、「1強」の緩みを指摘されても仕方ない。

 第2次安倍内閣以降、9人目の閣僚辞任。その都度、首相は自らの任命責任を口にするが、その重みが政権でさっぱり共有されないのは、それ自体がおごりだろう。言葉の重みを、国会対応で示してもらいたい。