新聞は歴史の秒針と言われるが、その基本は「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hにある。中でも「誰が」という要素は事実の根幹で主語のない情報は本来成立しない

▼近年その根幹が揺らいでいる。ネットの普及やプライバシー保護の高まりで「いつ」「どこで」「何が」は把握できても、肝心の主語がない、いわゆる匿名報道の拡大だ

▼死者36人の被害を出した京都アニメーション放火殺人事件では多くの遺族が実名公表を拒否した。報道各社が押し寄せるメディアスクラム、遺族の喪失感…。拒否の理由はさまざまだろう

▼ネット上では実名発表を求めるメディアに批判が相次ぎ、取材現場は戸惑いの連続だったという。「事件の悲しみは匿名でも伝えられるのではないか」。地元京都新聞社の葛藤は今も続く

▼さて、最大級の警戒レベルとなった台風19号は本県など各地に甚大な爪痕を残し、被害はさらに拡大しそうな様相だ。災害と向き合うたび最も必要とされる情報は何か。人命は「人名」だとあらためて思う

▼ただ、実名報道へのより丁寧な説明が求められる時代でもある。「知る権利」をごり押しするだけではメディアの上から目線、思考停止と受け止められかねない。「主語のない社会」に傾かぬよう果たすべき責務は重い。あすから新聞週間。