大型の台風19号が日本列島に迫る中、災害時の非常持ち出し品を確認した。真っ先に、光。東日本大震災津波が発生した日の停電、暗闇が頭をよぎる。携帯電話の充電が切れた苦い経験も

▼登山用のヘッドライト、懐中電灯、ランタン。モバイルバッテリーも確認し、充電ばっちり。準備万端だ。こうしてみると、いかにリチウムイオン電池の恩恵を受けているかを実感する。軽量小型、性能も高い

▼その開発者である旭化成名誉フェロー吉野彰氏が、今年のノーベル化学賞に決まった。「壁にぶつかっても、何とかなるさ」が信条。「どうせ乗り越えなきゃいけない壁なら、早く出てきてくれてありがたい」

▼チャレンジ精神から生まれた新技術が現代の情報化社会を支える。再生可能エネルギーの出力変動を補うため、風力や太陽光発電の拡大にも役立つ。地球温暖化が深刻化する中、人類の未来に明るい光をともす

▼壁の比喩で思い出すのが2009年、作家村上春樹氏がイスラエルの「エルサレム賞」を受賞した際のスピーチだ。「高くて固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵の側に立つ」

▼今年も村上氏のノーベル文学賞受賞はならなかった。だがその作品は、壁に行く手を阻まれた孤独な魂に、希望の光をともし続けている。さらなる作品を期待したい。