リレーエッセイ イワテライフの楽しみ方

富川岳さん第2回(全4回)

 
身近なところに「異界」の存在を感じます

 〝願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ〟。柳田國男が『遠野物語』で鼻息荒く言い放った気持ちが、今ではよくわかります。来年110周年を迎えるこの本との出合いは、遠野で最も大きな出合いでした。遠野といえば河童ですが、その元となる『遠野物語』は認知度に比べて中身についてはあまり知られていません(岩手にいるとその感覚も薄れますが…)。オシラサマ、山の神、マヨイガ。河童や座敷童子などレジェンドの他にも、ズラリと並ぶ個性豊かな物語たち。しかし、そういう私も最初はわずか10ページで断念。一話一話が短く、オチがなく、残るは不気味な後味。これのどこが物語なのだろう…と攻めあぐねていましたが、2年前から物語の舞台を師匠とめぐり、それが「眼前の事実」だと知ってからは、取り憑かれたようにこの世界に魅了されていきました。私たちが生きる現世と限りなく近いところに存在する異界。一歩山に踏み入れると、一歩闇の中を歩くと、これは〝いる〟と思う方が自然だな、と思うようになりました。

 様々な「分断」を目にする昨今ですが、こうして語り継がれてきた不思議な物語の中に、白と黒では割り切れないグレーを受容する心や、時代や場所を超えて見える人間の普遍性など、今を生きるヒントが眠っている気がします。今日もこの小盆地を歩き、考える日々です。

今月の人 富川岳さん
ローカルプロデューサー。1987年新潟県長岡市生まれ。都内の広告代理店を経て遠野に移住。土地の人や文化、物語の魅力を発信するプロデューサーとして活動中。