バスが停留所に止まる。列の外から割り込んできた高齢男性が「あんた、先に乗るか」と言う。一瞬、返答に窮していると、男性は「あんたの方が先に並んでいたんだから」と畳み掛ける

▼頭の中で「?」マークがぐるぐる回る。あたかも当方が男性から順番を譲られるような状況になっているではないか。「いやいや、お先にどうぞ」などと場を取り繕ったのは、まさに相手の思うつぼに違いない

▼列を乱すのは、決して褒められた行為ではない。だが相手は自分の親ほどの年代。しかも事の判断は、あくまで当方に委ねられている。自分に有利な状況に瞬時に持ち込む知恵者に、戦わずして敗れた気がした

▼「攻撃は最大の防御」という。バス停の列に割り入り、本来は責めを負うべき状況にも主導権を譲らない。相手の気をそぐ話術はまさに攻撃的防御。チコちゃんじゃないが、ボーッと生きてちゃこうはいかない

▼攻撃は動物の本能だが、それが無秩序では種の存続を危うくする。攻撃力が高いほど同種間での抑制本能も強いという。尻尾を丸めたり腹部をさらすなど、負けを認めた相手に対しては攻撃性が減退するわけだ

▼逆に生身では攻撃力が貧弱なヒトは、遺伝的に抑制本能が弱いらしい。「あおり」や「炎上」など、とかくイライラが際立つ世情。「知恵」を持ちたい。人間だもの。