「勇気を奮った公開が、人を動かす」

 過労でうつになった人の支援などに取り組み、全国各地で「自死遺族の想(おも)いを伝えるパネル展」を開催している大阪市のNPO法人「働く者のメンタルヘルス相談室」の伊福達彦理事長の信念だ。

 自ら命を絶った人の写真や遺族の手記などを展示し、深い悲しみや無念さを伝える。28日、一関市で開かれたパネル展とフォーラムのため来県した伊福理事長は「見学者の中に、社会でどう受け止めるかを考える力が養われてきている」と手応えを語る。

 日本では自殺者が1998年から年間3万人を突破。2006年に成立した自殺対策基本法は、自殺を個人の問題ではなく、社会の問題として共有する転換点となった。国を挙げた対策で、17年には自殺者が2万1千人台にまで減少した。

 さらに16年、改正自殺対策法が施行。国だけに義務付けていた自殺対策の計画を、都道府県や市町村が策定するよう定めた。地域の実情に即したきめ細かな対応を促すのが狙いだ。

 個人から社会の問題へ転換が図られたとはいえ、遺族と社会の接点は今なお乏しい。自殺対策をさらに強化していく上で、パネル展は、進むべき方向性を指し示していると言えよう。それは、自殺者や遺族の思いを受け止める地域づくりだ。

 自殺者を「数」で把握し、その増減に一喜一憂するのではなく、一人一人、なぜ自ら命を絶たなければならなかったのか、悲しみを繰り返さないために何が求められるか、遺族の話をしっかり聴き、対策に生かしてほしい。

 伊福理事長は今回の来県に際し、気仙地区も視察。「大切な人を奪われた喪失感。その上、先祖代々の家財を失った喪失感の分厚さは、大阪のような都会の人間には計り知れない。今後、震災遺族の思いを伝えるパネル展を開くなど、何らかのかたちで被災地の役にも立ちたい」と願う。

 格差が拡大する被災地。一戸建てで再建を果たした人、図らずも災害公営住宅に入居した人、なお将来展望が描けずプレハブの仮設住宅に住み続けている人。とりわけ大切な人を失った遺族にとって、生活再建が思うように進まなければ、心の重荷はいつまでたっても軽くならない。今後、震災関連自殺の増加も懸念される。

 保健師ら支援者は、自死遺族が悲しみを安心して語れる場づくりや、遺族と地域住民の間を取り持ち、思いを共有する機会を設けてほしい。

 遺族の思いが、地域を動かす。そして、遺族が心の中で大切な人と共に生きていくための一歩にもなるだろう。