「次からは遊びに来ます」。転勤を控え、花巻にできた大切な人に会うたび、そう話している。支局生活を振り返ると、自分と向き合ってくれた方々のまなざしと表情が浮かぶ。

 俳優・樹木希林さん死去の一報が入った16日夕、かつてドラマ撮影をしたという花巻市大沢地区方面に向かった。樹木さんと交流した方の思いを伺うためだ。話を聞ける当てはなく、取材は手探りだった。

 犬の散歩中の女性に声を掛けると「あの人エキストラしてたかも。一緒に行こう」と近くの美容室を案内してくれ、店主の中村礼子さん(65)は、夫の精一さん(70)と家中を探し回り、20年以上も前の品々を見せてくれた。午後8時、申し訳なく思いながらも別の家のチャイムを鳴らすと、当時を知る教員の杉本善樹さん(58)が温かく迎えてくれた。そして一本の記事ができた。

 今回ばかりではない。私が2年3カ月の間、記事を届けることができたのは、花巻の人が私に多くを語ってくれたから。花巻で生き、地域のことを語り継ぐ人がいてくれたおかげだ。

 花巻に来るまで神楽を見たこともワインを飲んだこともなかった。地道に郷土研究をする人も、かっこいい農業者の存在も知らなかった。これからは花巻ファンとして、ここに来る。

(前川晶)