2008年9月15日、ある会社の破綻に世界が凍り付く。米証券大手リーマン・ブラザーズが経営に行き詰まった「リーマン・ショック」から10年を迎えた。

 最初に起きたのは米国の一金融機関がなくなることだけだが、その一撃による破壊力はすさまじい。地球の裏側にある岩手で起きたことを見ても、それが分かる。

 全世界、日本で景気は急激に悪くなり、岩手では特に雇用に表れた。危機後8カ月間で、事業主都合による離職者は2万人を超えた。

 失業する人は急増したが、職は見つからない。県内最大の工業地帯・北上では一時期、求職者5人に対し1人分の求人しかなかった。

 自ら命を絶つ人も相次いだ。09年上半期の全国の自殺者は前年より5%増え、岩手の増加率はさらに上回る。景気や雇用の悪化が原因なのは明らかだった。

 遠く離れた外国で起きたことが平穏な暮らしを脅かし、果ては人生まで変わる。グローバル化時代を象徴する出来事だったと言えよう。

 08年の県内経済成長率はマイナス4・5%と国全体を下回った。働く人の給料は減り、1人当たり県民所得も6・5%落ち込んだ。震災もあり、危機前の水準に戻るまで4年を要している。

 いったん給料が大きく下がると、生涯の所得に影響してくる。リーマン危機の影は、いまだ地方にも落ちていると見るべきだろう。

 危機の直後、深刻な金融不安が世界を覆った。お金の出し手がいなくなり、大企業でさえ資金繰りに窮した。当時の恐怖が今も企業には染みついているようだ。

 手元にお金がないと心配な日本企業は、利益をため込むようになった。その額は10年で177兆円に上る。なかなか新たな投資や賃金には回らず、消費も伸びない。

 リーマン危機は、各国による素早い財政出動や金融緩和で救ったとされている。特に中国は4兆元の景気刺激策を打ち出し、脚光を浴びた。中国の存在感が世界で飛躍的に高まる10年でもあった。

 しかし、その4兆元が過剰生産を生み、世界に悪影響を及ぼしたのは皮肉と言える。現地の地方政府の膨大な借金も不安を呼んでいる。

 中国のみならず、日本など各国で膨らむ借金が新たな危機の火種になりつつある。金融緩和でマネーがあふれ、瞬時に世界を駆け巡る中では、どこでバブルがはじけるか分からぬ危うさをはらむ。

 危機が起きた時、借金漬けで超低金利を続ける日本は、新たな財政出動や金融政策で対応する余地が乏しい。リーマン危機後の10年は、アベノミクスの是非も問うている。