「いつの間に」という印象だろうか。日本など11カ国による自由貿易圏、環太平洋連携協定(TPP)の今国会での承認が確定した。

 協定の承認案、関連法案が衆院を通過した。「条約」であるTPPの承認案は憲法61条により、衆院を通過すれば参院で可決しなくても会期内に自然成立する。

 県民、国民生活に影響があるにもかかわらず、今国会でTPP法案の影は薄い。森友・加計問題など一連の不祥事や働き方改革法案を巡る攻防に紛れてしまった。

 衆院での議論はあまりに低調だった。承認案は外務委員会でわずか6時間の審議にとどまる。2年前に米国を含む協定の審議にかなりの時間をかけたためという。

 しかし、この協定は十分な国民の理解が得られたとは言い難い。乏しい議論のまま承認すべきかどうか。参院での審議を注視したい。

 TPPに対する世論の関心が薄れた原因は、巨大市場・米国の離脱にある。日本には工業製品の輸出、農産物の輸入いずれをとっても米国の存在が大きかった。

 米抜きの11カ国でも、国内総生産(GDP)が世界の13%を占める自由貿易圏ができる。そう政府は強調し、協定発効により雇用が46万人増えると試算している。

 しかし11カ国のGDP1100兆円のうち、半分は日本だ。つまり日本という大きな市場は、参加国にとって魅力的な輸出先になる。

 懸念すべきは農林水産業への影響だろう。例えば乳製品は、米国が抜けても7万トンの低関税輸入枠がそのまま残った。それをカナダなど参加国が埋めることになる。

 協定に米国が復帰しない場合、日本は農業分野で各国と「再協議」できるという。だが参加国がすんなりと応じるかは分からない。

 政府関係者の発言から読み取れるのは、協定を米国の要求から防ぐ「盾」にすることだ。米国が農産物の市場開放などを強硬に求めても「TPP以上の譲歩はしない」と突っぱねられる。

 だが、予測不能なトランプ米政権に通用するかは心もとない。トランプ大統領は日本が望むTPP復帰どころか、輸入車に高関税をかけるという一段と保護主義的な政策の検討を表明した。

 日本などと2国間の貿易交渉に持ち込み、圧力をかける狙いが見える。自動車など工業製品のみならず、農産物の市場開放でも譲歩を迫ってくる可能性は高い。

 その時、協定が「盾」の役割を果たせるのか。また真の国益につながるのか。一般国民がメリットを感じにくい11カ国のTPPについて、参院で本質的な議論を望みたい。