東京渋谷のど真ん中にありながら、夜な夜な「岩手な人々」が集う店。ここに行けば初対面同士でも仲良くなれるし、思いがけない共通の知人が見つかるかも?と在京出身者を中心に話題なのがその名も「イワテバル。」だ。

 「上ノ酒場ニ居リマス」と書かれた看板を横目に階段を上り、店の入り口を開けると目に飛び込むのは大きな岩手県地図。来店者の出身地には赤いシールを貼る仕組みで、既に全33市町村達成した。シールを貼ることができるのは純粋な出身者のみ。仕事やボランティアなどで居住し「第二の古里だから」と申し出てくれる人もいるが、「まずは出身者で」とこだわった。店内には県内観光名所の動画を流し、BGMの音楽は岩手出身やゆかりの歌手のみという徹底ぶりだ。

「おいしい食材を提供することで岩手に貢献したい」と腕を振るう佐々木達磨さん

 カウンター中心の店舗を一人で切り盛りするのは釜石市出身の佐々木達磨さん(36)。高校卒業後に上京し、震災後に「東京にいる自分が少しでも貢献できることはないか」と腕を振るっていた人気飲食店から独立し、2016年12月に開業した。やるからには都内のどこにも流通していないような岩手の食材にこだわりたい。それでも仕入れや販路開拓は初めての体験。困った時に助けられたのは、やはり「人のつながり」だったという。地元の知人ルートで生産者と交流を深め、開店後も台風10号被害にあった岩泉町の食材を仕入れたいと考えていたところ客の紹介で販路が開けた。

 メニューは南部鉄器を使った「岩泉のジンギスカンの鉄板焼き」や、大船渡産の殻付きカキなど、海のものから山のものまで。地酒や地ビールも取りそろえる。

大粒の大船渡産殻付きカキ。春先まで楽しめる

 宣伝や取材はほとんど受けていないが、SNSや口コミを中心に話題が広がり、岩手ゆかりの著名人も訪れる。その日偶然出会った客同士が、古里の話題に触れて楽しそうに食事している姿を見る時が一番うれしいという。話しているうちに共通の知人が見つかるケースも少なくないため、去年の秋から始めたのが「足跡帳」。来店者が任意で出身地や名前を記帳する。「こんな人も来ていたのか」と眺めているだけで盛り上がりそうだ。

 店を通じて親しくなった女性客のグループが「岩手日本酒女子会」というイベントを開いたり、今年の夏には希望者を募って盛岡の「さんさ踊り」に参加しようという話も盛り上がっている。

 あっという間の1周年。佐々木さんは「当初思っていた以上に『憩いの場』として受け入れてもらっている。店を続けることで生産者にもお客さんにも喜んでもらえれば」と古里への思いを深めている。