高級ブランドとファストファッション、店頭とネット販売-。多様化が進むアパレル業界で、縫製工場の生き残り競争は激しさを増す。そんな中、技術力の高い工場が集積する岩手県北地域は「アパレルの聖地」として注目を集める。けん引するのは、海外の高級ブランドからも指名を受ける久慈市の岩手モリヤ。「選ばれる」理由はどこにあるのだろう。

◇発注通りではない「付加価値」

 NHK連続テレビ小説「あまちゃん」の舞台として注目を浴びた県北沿岸の久慈市にある同社(森奥信孝社長、従業員87人)。主力商品は、高級婦人ジャケットやコート。トゥモローランド、レリアン、三陽商会、アングローバル-。数々の有名ブランドと取引する工場では、最新ジャケットやコートが次々と製造され、熟練の従業員によってミシンやアイロンがけが手際よく施されていく。

 「このジャケット、腕が少し前の方にカーブしているでしょ。女性の体の線に沿った形なんです」と森奥社長(65)。絶妙な角度をキープする仕上がりは、実はブランドから発注された型通りに作っていない。

 現在、国内の衣料品輸入浸透率は97%以上を占め、日本の繊維事業所数はこの30年でおよそ4分の1に減少。そんな中、岩手モリヤは経済産業省が今年まとめたデータでも「競争力のある縫製企業」として紹介されている。

 1988年創業の同社のモットーは「人の経験や勘に左右されない製品作り」。縫製業は細かな工程に分かれており、全てにおいて安定した水準が求められる。なおかつジャケットやウールコートは高級ブランドの中でも「顔」となる商品。常に高品質・高付加価値を提供できるか信頼関係が生命線となる。

最新型の3次元画像を見ながら型紙データを作成。IoT化によって工場内の機械同士がつながり作業効率がアップした

◇人でなければ担えない部分

 そのため力を入れているのが工場内のあらゆる機械をインターネットでつなぐモノのインターネット(IoT)化。「大事なのは、機械が担える部分と人間でなければ担えない部分にめりはりをつけ、後者の人員を手厚くすること」と森奥社長は強調する。

 単に生産効率を上げ人手不足に対応するだけでなく、データ活用によって高品質の製品を安定的に生み出すことも大きな目的。数年前から機械の導入を始め、昨年は約6千万円かけて本格的に整備した。

 同社の強みの一つが独自に行う「生地試験」。全ての素材に、熱や蒸気や圧力を加えて収縮性をテストし、結果をデータ化する。同社が扱う製品は高級なウール素材などが多く、少しの熱でも変化しやすい。このデータを活用すれば、裁断の段階から縫製、仕上がりまでの寸法変化を把握でき、完成してからの寸法トラブルの減少につながる。実際、取引先に納品した際「同じ素材で発注したのに、どうして岩手モリヤだけ他の工場より寸法問題が少ないのか」と驚かれることもあるという。

 試験データの送信先は、最新型の3次元コンピューター利用設計システム(3DCAD)。パソコン画面では、試験結果とブランドからの仕様書を基に作成する完成イメージを立体的に見ることができ、平面図と比べて精度の高い型紙データを作れるようになった。

 型紙データはさらに工場の各機械に送られる。生地をリラックスさせる「スポンジング」、カットしやすい状態に整える「延反」、「裁断」など、昨年までは人が張り付いていた工程が無人化され人員と作業時間を25%削減。その代わりにアイロンや手縫いなど縫製工程の人員を手厚くした。

 作業途中に見直す仕様書も、以前は膨大な量の紙をやりとりしていたが、タブレット端末を導入しペーパーレスにした。今後は人工知能(AI)ミシンも加え、工場内の機械同士のネットワークをさらに広げる予定だという。

年々盛り上がりを見せる「北いわて学生デザインファッションショー」。学生のデザインを基に地元企業が縫製し、プロのモデルが華やかなランウェーで披露する

◇女性社員が生き生きと働く場

 求められた水準以上の付加価値が、岩手モリヤという工場自体のブランド化につながり、高級品ほどぜひ同社でと指名を受ける。以前は取引先の開拓に苦労していたが、今では対応に苦慮するほど新規依頼が増えている。「これがうちのものづくり」と森奥社長は胸を張る。

 同社は従業員87人のうち9割が久慈市周辺地域に住む女性。出産しても安心して子育てしながら長く働けるようにと、小学3年までの子がいる場合は、終業後20分以内の帰宅を義務付ける。機械化を進める一方、技術者の誇りを養うために国家検定技能士の合格者には特別手当を支給。定年後の雇用延長も70歳に延長した。「一人一人の社員の力が会社の信頼を支える」と高度な技術の継承や人材育成に力を注ぐ。

 久慈市や二戸市を中心とする岩手県北地域は縫製業者が30社近くあり、世界レベルの技術を誇る工場が集まる国内でも有数の「アパレルの聖地」として連携を強める。県北広域振興圏内の繊維工業の製造品出荷額は増加傾向が続き、2013年の38億円から16年には45億円に達するなど伸び続けている。

 さらに若い世代とのつながりを強めようと、森奥社長が代表理事を務める「北いわてアパレル産業振興会」が中心となり、業界に憧れる学生がデザインした洋服をランウエーでお披露目するファッションショーを13年から開催。今年は女優のん(本名能年玲奈)さんも参加しイベントを盛り上げた。学生からの応募は初年度100通ほどだったが、今年度は5倍近くに上り、裾野の広がりを見せる。

 同産業振興会では、業界を支える女性たちに楽しく誇りを持って働いてもらおうと16年に「北いわて仕立て屋女子会」を発足。森奥社長らが中心となり、女性従業員が会社の枠を超えて技術を学び合う場をつくっている。

11月に東京都内で開かれた繊維総合見本市「JFW JAPAN CREATION 2019」。岩手県共同展示ブースを出し「アパレルの聖地」北いわての技術力をPRした

◇「一度は流された」震災からの再起

 先駆的なIoT化を進める一方、従業員の誇りを守り、地域全体をも元気にする。森奥社長の原動力は、一度は「倒産も覚悟した」経験が糧になっている。

 11年の東日本大震災で被災し、震災後1週間は工場が止まった。従業員は無事だったものの工場裏の倉庫も浸水、閑散期と重なり仕事もなく「つぶれてもおかしくなかった」状態。収入がないなら支出を減らそうと、無駄な照明を消すことから始まり、省電力型の機械を導入したり、工場内のレイアウトを工夫して2棟を1棟に集約したりと、徹底して無駄を省いた。その結果、震災前と比べ電気使用量を52%削減し、今も削減活動を続けている。

 「華やかなファッションの世界を支えているのは地味なものづくり。でも誇らしい」と森奥社長。「日本の縫製工場で作られた洋服だけがメードインジャパンとうたわれ、世界の高い評価を受けている。これからも社員一丸で日本ブランドを支えていく」と力を込める。

連載「伝統技術×革新」
職人の高齢化や担い手不足が進む日本の伝統技術。岩手日報とYahoo!ニュースの共同企画「伝統技術×革新」では、機械化やAIをうまく活用しながら職人の技術を守り残そうと模索する取り組みを紹介します。