NIEの研究成果や実践を共有する日本NIE学会(会長・阪根健二鳴門教育大大学院教授=学校教育学)の第15回鹿児島大会は11月24、25の両日、「資質・能力の育成とNIE」をテーマに鹿児島市の鹿児島大で開かれた。1日目のシンポジウム・研究分科会、2日目の自由研究発表に計約130人が参加。「NIEによる資質・能力育成の可能性を問う」と題したシンポでは、鹿児島大大学院の教授ら3人が、NIEによる読解力・表現力の育成・効果を検証する取り組みを発表した。次回は、来年10月19日から2日間、徳島県の鳴門教育大で開催される。

 

鹿児島大・田口准教授 見出しで読解力調査

田口紘子准教授

 鹿児島大学術研究院の田口紘子准教授(教育学)はNIE実践校1年目の公立小学校と非実践校を比較し、NIEによる読解力の効果や新聞活用に対する意識について調べた。

 読解力については、高齢者らを対象にした山間部と都市部の移動販売車の記事を活用。前文を読み、見出しを付けさせた。

 十分な効果を示すデータにはならなかったが、実践校の児童は「買い物弱者」や「高齢者支援」などキーワードとなる社会的意味・目的を加味した見出しを付ける傾向が見られた。

 また、新聞活用に関しては授業や家庭で行っている学習を児童がしっかり認知していることを確認した。

 田口准教授は「見出しを分類し判定する方法を提案できた。継続的に取り組みたい」と振り返った。

 

鹿児島大・溝口教授 測定指標開発し提案

溝口和宏教授

 鹿児島大大学院の溝口和宏教授(教育学)は、NIE実践校1年目の公立中学校で行った「NIEによる教科の資質・能力の育成と検証」を発表した。

 溝口教授は授業づくりから教員と協力し、社会科の授業とテストで生徒に複数記事を比較・関連させ読み解かせた。共通点と相違点、社会的関心の広がり-の3点の読解力を考察。▽本文を引用し両方の記事を説明▽見出しを引用し両方の記事を説明▽片方の記事だけを説明▽説明不十分▽無回答-などに分類した。

 事前事後調査のほか、1学期末、2学期中間のテストを活用。説明不十分や無回答が大きく減った。

 溝口教授は「社会科の読解力育成に関わる記事選択のモデル、効果を測る調査問題、測定指標を開発できた」と締めくくった。

 

鹿児島大・原田准教授 新聞作りの効果確認

原口義則准教授

鹿児島大法文教育学域教育学系の原田義則准教授(国語科教育)は、新聞作りによる表現力の効果について、実践校1年目の公立中学校で研究した。

 生徒の「楽しくない」「もっと時間をかけたい」、教員の「教材使用の価値が分からない」「時間がかけられず不十分に終わる」との声から、キーワードを「手応え」「時間」に設定。学校と協力し国語と総合学習の時間を組み合わせたカリキュラムを編成した。

 生徒の新聞は、以前に比べ、情報を整理し、主張や提言を述べる域まで発展。前年度の学習定着度調査を使ったテストでは正答率が県平均を大きく上回った。 原田准教授は「時間を確保し生徒に手応えを感じさせることで新聞作りは表現力を向上させる。その効果を検証できた」と強調した。


 

若手2教員が実践発表

 鹿児島・谷山小 効果を実感、積極展開

NIE実践1年目の効果を報告する谷山小の立和田大樹教諭と朴木裕子教諭

 シンポジウムに続く研究分科会は、読解力、社会参画力、表現力について「NIEによる育成と効果の検証」をテーマにした3分科会などが開かれ、「NIEによる読解力の育成と効果の検証」の分科会では、若手教諭2人が発表した。

 登壇したのは、鹿児島大の田口紘子准教授と共同研究を行った鹿児島市・谷山小の立和田(たちわだ)大樹教諭(32)と朴木(ふのき)裕子教諭(29)。NIEは初めてで手探りのスタートだったが、今では効果を実感。他の教員に積極的に勧めている。

 同校のNIE導入のきっかけは全国学力学習状況調査で国語B問題(活用)が全国平均を下回ったこと。「情報を正しく選択し読み解き適切に活用する思考力・判断力・表現力を高める」をNIE教育目標に設定し、単元一覧表への位置付け、毎月1回のNIEタイム、各学年への担当配置など学校全体で取り組む体制を組む。親子で新聞を読み話し合うファミリーフォーカスなど家庭を巻き込んだ活動にも力を入れる。

 朴木教諭は「新聞を手放そうとしない子どもたちを見るのが楽しい」、立和田教諭は「学校だけではもったいないと、家庭にも勧めている」と目を輝かせた。

 田口准教授は「新聞活用に対し、まず先生が変わった。頼もしい」とし、NIEアドバイザーを務める永田清文校長は「職員の一つずつの積み上げが大切。来年は活動の幅が広がる」と若い2人を見守る。

 

《指定討論》 学校、研究者の協働評価

 指定討論者として、福山大人間文化学部(広島県)の小原友行教授(教育学)と鹿児島県教育庁義務教育課の山本悟課長が登壇した。

 小原教授は鹿児島大の研究を「授業実践の中で変容を調査し、学校現場と研究者の協働の形をつくった」と評価。一方で「新聞社がなぜこの見出しを付けたのか-など、もう一つの読解力を育てるところがNIEの魅力。その点にも挑戦してほしい」と注文した。

 山本課長は大学入試に思考、判断、表現力を問う設問が入ることを指摘し「入試に備え、高校、中学の授業が変わる。新聞を読み、作ることが思考、表現の力を付けることは無回答が減った研究結果で明らか。書くことに慣れ『やってみよう』という意欲につながると考える」と強調した。

 

《自由研究発表》

 2日目の自由研究発表では、全国の教員や研究者が実践や研究を報告。英文とコラムをリンクさせた授業や新聞閲覧が大学生の成績に及ぼす影響の調査研究など計16の発表が行われ、活発な議論が展開された。

 

全国大会が刺激に

 熊本市・龍田小の笹原信二教諭は、発生2年半を経た熊本地震の風化を防ぐ学習を紹介した。

 笹原教諭は、被災児童を考慮し熊本地震を伝える授業をちゅうちょしていたがNIE全国大会盛岡大会で大槌学園の公開授業を見て考えが変わった。発生当時、幼かった子どもの経験値は低い。「風化を防ぐには、授業で取り上げなければ」

 宮古市姉吉地区の「此処(ここ)より下に家を建てるな」の石碑を紹介する記事などを使い防災学習を展開した。

 笹原教諭は「防災教育は継続的に取り組むことが大切だ」と呼び掛けた。

 

災害を英語で表現

 鳥取環境大の山西敏博教授は「『西日本豪雨・大阪北部地震』をはじめとする新聞記事を用いた英語による自己表現」と題し大学におけるNIE活動を紹介した。

 生徒は新聞33紙から記事を選び説明と意見をスピーチ。語彙(ごい)力やプレゼン能力を磨く。災害に関しては、自分のこととして捉え、防災意識を向上させる目的で指導しているという。

 「災害は多く、学生に英語で発信する力を付けさせたい」と力を込めた。

 

小中一貫、投稿が柱

 高松市・高松第一中の前野勝彦教諭は新聞投稿を中心とした小中一貫教育のNIEを報告した。

 前野教諭の担当は8学年数学だが、常に投稿用のはがきと原稿用紙を持ち歩き、川柳や投稿文に興味を示す児童生徒に配布する。狙いは▽社会に関心を持つ▽自分の意見を持つ▽表現力の育成-の3点。掲載は、本人の励みだけではなく友人らへの刺激にもなる。

 道徳では家族をテーマにした生徒の作文を利用。前野教諭は「生徒の作品を使うことで、テーマがぐっと近くなる」と効果を語る。


 

上谷実行委員長に聞く 成果探る方向性示す

 日本NIE学会鹿児島大会実行委員長の上谷順三郎・鹿児島大教育学部長に大会を振り返ってもらった。

(聞き手・読者センター 礒崎真澄)

紙面は学びを試す場

「鹿児島大会でNIEの効果を検証する方向性が示せた」と語る上谷順三郎実行委員長

 -シンポのテーマは「NIEによる資質・能力育成の可能性を問う」だった。

 「小学校の検証では、授業や調査が子どもたちの意識に残っていることが分かり、中学校ではどんな力が付いたかを問う研究ができた。また、過去の学習定着度調査を使い成績向上がみられた。どんな調査項目でどんな成果を検証できるか方向性を示せた」

 「分科会は、検証の事例報告で参加者の考えが深まった。自由研究発表もシンポからの流れで検証や改善を問う質問が多く、一貫した大会になったと感じる」

 -大会を通じ、NIEの役割をどう考えたか。

 「新学習指導要領の柱は知識および技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等の三つ。NIEは学びに向かう力・人間性等に強く関わる。教科書は、過去から未来も含め抽象化されている。その学習を今とどうリンクさせるか試す場が新聞紙面だ」

 「何が載っているか分からないその日の新聞を皆で読み、考え、意見交換できれば相当な自信になる。NIEの理想だ。子どもにとって、知っている事、知らない事、興味のある事-が分かる。仲間との相対的な比較も大事だ。ハードルを高く感じる先生も多いが、難しく考える必要はない。日常(新聞に)接していれば難しさは軽減する」

 -岩手では今夏、NIE全国大会が開かれた。

 「スローガン『新聞と歩む 復興、未来へ』には、NIEへの期待と継続のヒントが込められていたと思う。生きていることを実感する一つがニュースの存在だ。NIEの実践と研究を期待している」

 上谷 順三郎さん(かみたに・じゅんさぶろう)筑波大卒。岩手大教育学部助教授、鹿児島大教授などを経て、18年同大教育学部長。専攻は国語科教育。56歳。鹿児島県出身。

 

夏井・花巻東高教諭寄稿 地域に開かれた活動学ぶ

 本県から参加した花巻東高の夏井友也教諭(国語科)に大会報告を寄せてもらった。

   ◇    ◇  

持続的な取り組みにヒント

 今夏NIE全国大会盛岡大会で実践発表を行った。実践校2年目で、学びの場を求め日本NIE学会に入り鹿児島大会に参加した。

 初日の研究分科会で興味深かった発表は、鹿児島・大島高教諭の「調査報道『本校は巨大軍需工場跡』~新聞部の活動を通した社会参画力の育み」だった。学校の敷地が軍需工場だった地元の人もあまり知らない歴史を新聞部の生徒が住民らに取材し刊行物として定期的に発信する活動は、生徒の自主性、地域に開かれたNIE活動として優れた取り組みだと感じた。

 2日目の自由研究発表は鹿児島県鹿屋市・西原台小教諭の「NIEを通して育む国語科『読むこと』の資質・能力-文学的文章教材の授業実践を例に」を聴講した。国語の授業展開に新聞作成を取り入れ壁新聞で学習をまとめていく。児童がいきいきと活動し、興味関心を持ち、意欲的に取り組む姿に、高いパフォーマンスで学習効果を上げる過程を目の当たりにした。

 鹿児島大会を経て、生徒が自分で考え行動し、自分で考えてまとめ、自分で発信し成長する新聞活用の方法を、所属校の状況に合わせ持続可能な取り組みとするヒントを多く得られた。