日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が先週の国会で承認された。欧州側も今月中に手続きを終え、来年2月1日に発効する見通しとなった。

 多くの県民、国民は「いつの間に」との受け止めではないか。10日閉幕した臨時国会で日欧EPAの論議は外国人労働者問題などに隠れ、終始低調に終わった。

 河野太郎外相の外遊なども重なり、衆参の審議は計9時間にとどまる。協定の内容、影響に議論が全く深まらなかったのは残念だ。

 政府は、協定の「光」の部分をことさら強調する。世界の国内総生産(GDP)の28%、貿易額の37%を占める世界最大級の自由貿易圏が生まれるとうたう。

 協定発効で日本のGDPを5兆円引き上げ、30万人近い雇用を生むと試算した。消費者には、関税撤廃で欧州産のチーズやワインが安く買えると利点を宣伝する。

 欧州側の期待も大きい。農産品などで日本市場を開拓できるのはもちろんだが、自由貿易に背を向けるトランプ米政権をけん制する日欧共通の狙いもある。

 安倍晋三首相は、欧州と共に「自由で公正なルールに基づく多角的貿易体制を支えていく」としている。保護主義に傾く米国に加え、中国も念頭に置いたものだろう。

 だが、自由貿易を柱とする日欧の連携強化は政府が言う「光」だけではない。打撃を受ける「影」の部分から目をそらしてはならない。

 産業界では、欧州への輸出増に期待が高い。自動車の関税は発効8年目に撤廃され、部品はほぼ即時撤廃となる。先に欧州とのEPAを発効させた韓国車との対等な競争条件がようやく整う。

 とはいえ、欧州は地元車が他を圧倒する。日本勢は早くから現地生産しているものの、シェア拡大に苦戦する現状だ。直ちに輸出増につながるかは見通せない。

 最も懸念されるのは農林水産業への影響だろう。かつてない市場開放となり、高い品質を持つ欧州産との厳しい競合に直面する。

 岩手でも、豚肉や集成材などの林産物を中心に最大約30億円の生産減が生じると県が試算した。全国的にも欧州産の安い乳製品が増え、酪農への打撃が予想される。

 政府はEPAと環太平洋連携協定(TPP)発効に向けた農林水産業の規模拡大を急ぐ。補正予算案に3千億円超を盛り込むが、地域には小さくても酪農・畜産を続けられる対策を望む声が強い。

 岩手、全国では今、酪農家が次々とやめていく現実がある。大規模補正で基盤を整える一方、長い目で生産を続けていける支援が求められる。